フェリチンと鉄の関係性と吸収率

鉄はどのようにからだの中に取り込まれて、どのような働きをするのでしょうか。
また、フェリチンとは鉄とどのように違うのでしょうか。

簡潔にいえば、フェリチンとは鉄を貯蔵するために鉄と結合しているタンパク質であり、
鉄は体内にいろいろな状態で存在しているものになります。

何がどのように働くのか、からだの中で鉄はどのように働くのか、
一般の方に向けて解説します。

食品中の鉄はどのように吸収される?

食品中の鉄は、タンパク質に結合したヘム鉄と無機鉄である非ヘム鉄に分けられます1)

一般的にヘム鉄は吸収率が高く、非ヘム鉄は吸収率が低いと言われているものの、
食品を一概にヘム鉄、非ヘム鉄と区分をすることも難しく、
また食べ合わせなども大きくかかわってくることから、食品個体の吸収率を求めることはできないとされています。

鉄は平衡状態が維持されるミネラル

鉄は吸収率が摂取量に応じて変動し、低摂取量でも平衡状態が維持されます1)

これはとても重要なことです。

例えば、からだが鉄が必要だと求めていれば多く吸収されるということであり、
摂取量が少なくてもなるべく平衡状態が維持できるように、保たれています。

そのため、必要な量を導き出すと少ない量になってしまい、
必要量の特定困難であることに加え、日本においては現在、鉄の必要量に関するデータが不足していることから、
日本人の食事摂取基準では、生後6ヶ月以上にはアメリカ・カナダの食事摂取基準を参考に導きだされています1)

(6ヶ月未満には平均的な母乳量とそれに含まれる鉄量から算出1)

鉄の摂取量の指標はとても複雑

食品で摂りたい鉄の算出方法は、成長に伴う血液の増加、
それにともなうヘモグロビンの増加などにより鉄の必要量を算出します1)

各年齢区分によっても計算方法が異なり、月経がある年齢の女性の場合は、失う血液量に伴う鉄をプラスで補う必要があります。

しかし、鉄の摂取の目安量などを算出しても、
前述のとおり鉄は均衡性が保たれているので貧血と安易には結び付けられません。

食品からの鉄の吸収率

食品中の鉄の吸収率は、下記理由により、一概に述べることはできません。

①食事中のヘム鉄と非ヘム鉄の構成比率などによって変わる1)

②鉄の吸収促進したり阻害したりする食品を摂取したりすることによって、大きく変わる1)

③からだの鉄の必要状態によって異なる1)

これら理由があるので、吸収率は決めることができませんが、日本においては大豆製品や野菜のような非ヘム鉄から摂ることが多いことから、日本人の食事摂取基準では、海外文献での非ヘム鉄の平均的な吸収量15%を採用して全体を計算しています1)

つまり、日本人の食事摂取基準をもとに食品中の鉄を計算する場合は、非ヘム鉄の場合であると考えてもいいでしょう。

フェリチンとは

フェリチンとは、中に鉄を抱えるタンパク質です。 鉄を抱え込んで、余分に流れ出ないように貯蔵する働きがあります。

例えるなら、フェリチンとは缶詰ようなものです。
中に鉄をいれておきいざという時のために貯蔵しているものです。

鉄は缶詰のようなもの。フェリチンとは貯蔵鉄をいれている缶


フェリチンは、メインで毎日のように使うものではなく、「いざという時に使う貯蔵品」になります。

日々の食事に例えると、ほとんどは毎日使う食料品がほとんどですが、
食材によっては長期保存しておくものもありますよね。

在庫が少なくなったときに備えて缶詰や乾物を用意してあったりするでしょう2)

それと同じ方法で鉄を貯蔵しています。

そこで、この貯蔵品があまりにも少ないと、生の食材が少なくなった時に、なにもないということになり、
一気に鉄不足になってしまうため、危険になります。

つまり、フェリチンは少ないと不安になるため、ある程度は蓄えておきたいものです。

ただし、この量は定量の方法などによっても差があることに加え、
欧米の基準と日本の基準でも異なること、また幅がとても広くなかなか難しいのが現状です。

フェリチンの働き

フェリチンと呼ばれるタンパク質に貯蔵されている鉄を「貯蔵鉄」といいます。


体内のフェリチン量を確認するために、医師はフェリチンの血液検査を指示する場合があります。

フェリチンとは貯蔵鉄のことではありませんが、フェリチンは鉄を抱え込んでいるため、
フェリチン量を図ることで、その中にあるだいたい貯蔵鉄の量を推測できます。

鉄の役割と存在場所

からだの中の鉄の多くは、タンパク質と結合して存在します。
体内の鉄の約2/3は赤血球内のヘモグロビンとして働いています3)
残りの約1/3がフェリチン等*に結合して貯蔵鉄として肝臓や脾臓で貯えられます3)

*資料内ではフェリチンとヘモジデリンとありますが、本記事では「等」として省略

赤血球の成分の1つヘモグロビン

ヘモグロビンは、酸素運搬に大きな役割を担っている赤血球に含まれる赤色素タンパク質です。
鉄(ヘム)とタンパク質(グロビン)が結びついたもので、血液が赤い色をしているのはヘムが赤色素を持っているためです4)

ヘモグロビンとはヘム(鉄)とタンパク質があわさってできたもので酸素を運ぶ
わかりやすいようにデフォルメをしていますので実際の大きさや形状ではありません。

鉄分が不足すると、うまくヘモグロビンが作られなくなり、赤血球が小さくなったり数が減ってしまうため、
酸素運搬に支障がでることで動悸・息切れ・疲労感などが起きたりします4)

これらの症状は鉄欠乏性貧血が疑われますので、医療機関にご相談されて、血液検査などを受けてみてください。

貯蔵鉄を囲うフェリチン

フェリチンは中央に鉄をもち、周りをアポフェリチンというタンパク質に囲まれている構造をしています3)

このフェリチンは肝臓・脾臓に多く存在しますが、
腸の粘膜や胎盤、心臓、腎、赤血球などいろいろなところに存在します3)

鉄 フェリチンとは

このフェリチンの量を数えることによって、貯蔵鉄の量の目安になるため、
フェリチンが低下している場合には鉄欠乏が考えられます3)

しかし、このフェリチンだけが高値であって、血清鉄が少なく、実際に使える鉄が必要な場合もあります。
使える鉄に変換することが出来る必要があります。

血清鉄

血清鉄は体内の鉄のうち0.1%程度とごくわずかで、トランスフェリンという鉄結合性糖タンパクと結合して存在します3)

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離乳食期における鉄欠乏

離乳食期において、
・離乳食は大変だから1歳まで離乳食をあげないで母乳だけにする
・タンパク質はアレルギーが怖いからごく少量だけ(もしくは遅らせる)
というようなことがあると、成長に伴い、鉄欠乏性貧血の心配が考えられます。

離乳食で鉄不足が気になったら考えたいこと

1.離乳食の開始を遅らせない。特にタンパク質を遅らせない

母乳育児の場合は6ヶ月を過ぎたら、鉄を含む食品を摂ることが推奨されています5)

魚、肉、卵黄などの他、豆腐、納豆、きな粉、ほうれん草などをあげてみましょう5)

【関連記事】離乳食の鉄分摂取は何をどのくらい?

2.離乳食の目安量で止めない

赤ちゃんが食べたそうにしても、離乳食の目安量だからとその量しか作らないということをしてしまうと、
動いたらもっと食べたい!成長時期だからもっと食べたい!という赤ちゃんの食欲にあわないことも考えられます。

離乳食の量に決まりはなく、あくまでも目安量なので、この量しかダメ!というようにしないようにして、
しっかり肉や魚と、野菜類、穀類をしっかりとっていきましょう。

レシピ本などで1回量が書いてあっても
、倍量作って食べ散らかしたり残したりしても大丈夫なくらいの余力をもって作っておくといいでしょう。

3.卵黄をしっかりあげる

卵黄には、非ヘム鉄とタンパク質が含まれます。

しかし、近年では卵アレルギーが怖いからと遅らせてしまったり、ごく微量だけを長く続けるケースもみられます。
卵黄はしっかり固ゆで卵にして、アレルギー抗原残存率を下げてから、しっかり食べていきましょう。

一度にたくさん食べられない、不安があることもあると思いますので、
少しから始める場合でも倍ずつ進めていき、足りない分は、赤身の肉や魚でしっかり他のタンパク質を加えてあげるようにしましょう。

4.母乳や育児用ミルクの代わりに牛乳をごくごく飲ませたりしない

乳児期は鉄が必要なので、母乳や育児用ミルクにし、牛乳をゴクゴクとたくさん飲むようなことは避けましょう。

妊娠後期はなるべく長くして貯蔵鉄を

赤ちゃんを鉄欠乏にさせないためには、妊娠後期を長くすること(=満期産に近づけること)もポイントです。

赤ちゃんの貯蔵鉄は、母体の妊娠後期に赤ちゃんに移行し作られるため、妊娠後期を長く過ごした方が貯蔵鉄が多くなります。

妊娠中のヤセは、早産傾向もみられるため、妊娠中は体重を適宜増やしましょう。

さいごに

鉄の吸収率はさまざまな要因で変わることに加え、さまざまな状態で鉄は体内で働いたり、
貯められており、均衡性が保たれていることがご理解いただけましたでしょうか。

たしかに、離乳期においてはちょうど持って生まれてきた貯蔵鉄がなくなる時期ですので、
鉄を含む肉類や魚類、大豆製品などは特に食べていきたいものです。

つまり、離乳食は、量を少なくしすぎず、しっかりあげていくようにしましょう。

まずはお子さんが、元気に成長しているか、体重や身長は大きくなっているか。
何らかのお肉やお魚、豆腐、野菜などを食べているかを考えてみてください。

ちょっと不安になったら、
・ヨーグルトなどにきな粉をふりかけてみたり、
・ごはんや味噌汁にかつおぶしや煮干しの粉をかけてみたり
してチョイ足しを楽しんでみてくださいね。

それでも改善がみられなかったり不調がある場合には、医療機関に相談してみましょう。

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参考文献

1)厚生労働省,日本人の食事摂取基準 2020年版,P.311(閲覧日:2023年7月22日)

2)Ferritin Blood Test,WebMD,by Carol DerSarkissian, MD on September 10, 2022(閲覧日:2023年7月22日)

3)岡田晋吾編,キーワードでわかる臨床栄養学 令和版,2020年4月第3版1刷.P.147-155,羊土社

4)Hb/血色素量,厚生労働省情報提供サイトe-ヘルスネット閲覧日:2023年7月22日)

5)厚生労働省,授乳離乳の支援ガイド(2019年改訂版(閲覧日:2023年7月23日)


著者

川口由美子
川口由美子
一般社団法人 母子栄養協会 代表理事
女子栄養大学 生涯学習講師
NHK「すくすく子育て」他 出演
女子栄養大学 卒(小児栄養学研究室)。企業にて離乳食の開発を行ったのち独立、管理栄養士として多くの離乳食相談を聞き、母親に寄り添った講演会を開いている