妊婦はいくらを食べても大丈夫?リステリア菌などリスクを考える
いくらは、妊娠中には控えた方が良い食材です。なぜ避けた方がいいのか、その理由について詳しく解説します。
いくらは生なので、リステリア菌などの可能性もありえることに加えて、塩蔵のため塩をたくさん摂ってしまうことも考えられます。
いくらとは生の魚卵
「イクラ」はロシア語で「魚卵」を意味しますが、日本においては魚のさけ、あるいはますの卵など、種類はさまざまです。
いくらは、これらの生の魚卵を塩蔵したものを指します。
卵の粒を分離せずに卵膜がついたままの状態で塩蔵したものを「すじこ」と呼びます[*1] 。
いくらには、いくつかの食中毒リスクがある他、塩分にも注意が必要です。詳しく解説します。
いくらのリステリア菌感染リスク
魚介類であるいくらには、腸炎ビブリオなどの食中毒リスクがある他、
「リステリア菌」による食中毒のリスクがあります。
リステリア菌による食中毒は、ナチュラルチーズ、生ハムなどの食肉加工品、スモークサーモンなどの
魚介類加工品などで報告が多く、いくらからも リステリア菌が検出されています。
リステリア菌は、4℃以下の低温や12%食塩濃度下でも増殖できるのが特徴であるため、
冷蔵庫など適切に保管していても、生食ではリスクがある細菌です2) 。
リステリア菌による食中毒は健常な大人では重症化する例は稀で、感染しても気付かないことも多いものです。
しかし、妊娠中はリステリア菌に感染すると、おなかの赤ちゃんにも影響があることがわかっています。
このことから、妊娠中は生の状態でいくらを食べることは避ける方が良いといえます。
管理栄養士
リステリア菌は加熱(中心部75℃以上、1分間)によって死滅しますが、
いくらは加熱をすると色も食感も変わってしまうので、
1分以上加熱して食べることはほとんどないでしょう
アニサキスの感染リスクは少ない
アニサキスは魚介類に寄生する寄生虫で、アニサキスに寄生されている魚介類を食べることで
食中毒が引き起こされることがあります。
いくらがアニサキスに寄生されることはありませんが、
さけはアニサキスに寄生される可能性が高い魚であるため、すじこなどの表面についている可能性があります。
すじこからいくらを取り出す場合には、目視でアニサキスの確認が必要です。
アニサキスは加熱(60℃で1分以上、もしくは70℃以上)する、または冷凍(-20℃で24時間以上)することで死滅させられます。
冷凍いくらであれば、アニサキスの心配は少ないです。
しかしながら、いくらはリステリア菌などの食中毒が心配なので、生のいくらは避ける方が良いでしょう。
管理栄養士
アニサキスの可能性はゼロではありませんが、すじこの表面で、なおかつ目視で確認できるアニサキスよりも、リステリア菌が心配ですね。
いくらによる塩分過多
妊娠中はむくみやすくなるため、塩分の摂りすぎには気を付けたいものです。
成人女性の食塩の摂取目標量は、6.5g未満/日と、結構低い目標に設定されています3) 。
いくら100gには、食塩相当量で2.3g含まれており1)、塩分が多い食べ物です。
すなわち、いくらは、塩分の摂りすぎになりやすいという点でも注意が必要です。
いくらはビタミンAの過剰摂取になる?
妊娠中は通常より多く摂取する必要がある栄養素があり、ビタミンAはその一つです。
しかしながらビタミンAは、摂りすぎにも気を付ける必要がある栄養素であり、耐容上限量*は2,700μgRAE/日となっています。
(*耐容上限量…健康障害をもたらす危険がないとみなされる習慣的な摂取量の上限量)
いくらはビタミンAを多く含む食品ですが、100gで330μgRAE程度です1) 。
いくらをたくさんのせて食べるいくら丼でも、いくらの量は100~150g程度ですので、
よほど偏った食べ方をしない限り、いくらではビタミンAの過剰摂取を心配する必要はありません。
ビタミンAの過剰摂取で気を付けたい食べ物
ビタミンAの過剰摂取に注意が必要な食材は、うなぎやレバーです。
<食品100g中のビタミンA含有量>
食材名 | 100gあたりのビタミンA |
鶏レバー(生**) | 14,000μgRAE |
豚レバー(生**) | 13,000μgRAE |
うなぎのかば焼き | 1,500μgRAE |
**生レバーで計算されているのは成分表上の値であり、生レバー摂取をすすめる物ではありません。必ず加熱して使います。
しかし、うなぎやレバーも、毎日食べ続けるということはほとんどないと思われますので、耐容上限量を超えたからといってすぐに異常がでたりするものではありません。
耐容上限量とは、1日などではなくそのような食生活を続けた場合にリスクが高まるということですので、気づいた時点で控えるようにしましょう。
また、食品からの摂取以上に、マルチビタミンなどのサプリメントに含まれるビタミンAが問題となるため、サプリメントを摂取している場合には注意が必要です。
管理栄養士
ビタミンAの過剰は食品の心配はあまり必要ありません。
サプリメントに特に注意をしましょう。
妊娠中のいくらに関するよくある質問
妊娠中は生のいくらを避けた方が良いとお伝えしましたが、
おにぎりなどに含まれるものもダメでしょうか?もし生のいくらを食べてしまったら?
疑問について解説します。
リステリア菌は加熱により死滅します。
よって、いくらをしっかり加熱することで食中毒のリスクを低減して食べることは可能です。
しかし、いくらは、鶏卵と同じように加熱することでかたくなり、生の状態とは異なる見た目・食感になります。
いくらのおにぎりも、生のいくらが使用されることがあるため、避ける方が良いでしょう。
一方で、いくらのイミテーションである「人工いくら」の場合には、いくらとは別物であり、
生のいくらではないため、食べることができます。
しかし、事前に市販される加工品やお店のメニューに使用されるものが人工いくらかを見分けることは難しいです。
回転寿司などでも人工いくらを使うことはあまりないとのことですが、
どうしても生のいくらの風味や食感を味わいたい場合には人工いくらを選択してみるのも良いかもしれませんね。
食べてしまった場合のよくある質問
生のいくらを避けるべきと知らずに食べてしまうこともあるかもしれません。
食べた後、特に気になる症状などが無ければ心配しすぎる必要はありません。
今後の食生活で注意できればOKです。
また、お腹の赤ちゃんへの影響は胎盤を通じて起こると言われているため、
妊娠初期の胎盤が完成する前であれば、心配も少ないと考えられます。
妊娠中は、いくらを避けられると安心
妊娠中、生のいくらを食べることは、食中毒の観点から避けた方が良いでしょう。
いくらを食べたい場合には加熱することで食中毒のリスクを低減できますが、なかなか食べにくいので現実は難しいかもしれませんね。
妊娠中は食生活で注意することが多く、大変かと思いますが、ポイントを押さえてお食事を楽しんでくださいね。
参考文献
1)文部科学省ホームページ. 「日本食品標準成分表2020年版(八訂):文部科学省」.食品別留意点 (参照 2022年12月2日)
2) 厚生労働省.「リステリアによる食中毒」(参照2022年12月2日)
3) 厚生労働省.「日本人の食事摂取基準」(2020年版)(参照2022年12月12日)
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管理栄養士/母子栄養指導士
子育て家族の食卓研究「FooMiLab」主宰
大手加工食品メーカーでの開発・基礎研究の経験を活かし、赤ちゃんも大人も笑顔になれる食卓づくりについて、レシピ研究・情報発信・教室運営をしています。離乳食相談実績多数。ベビーフード開発・監修実績あります。
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