妊娠中、惣菜や冷凍食品の摂りすぎはダメ?
妊娠中は体調不良や大きくなったお腹でなかなか思うように家事ができないものですよね。
お食事はお弁当や冷凍食品などがとても便利ですが、これらを摂りすぎると良くないのでしょうか?
最近発表された論文をもとに見ていきましょう。
市販のお弁当や冷凍食品を摂りすぎると良くないと聞きました。料理が苦手なのでよく食べますが、とても心配です。
管理栄養士
お弁当や冷凍食品は とても便利ですよね。私も忙しい時や一品足したい時などに利用しますよ。
どのようなことがご心配になりましたか?
お弁当や冷凍食品を温める時に、
容器から妊娠経過に悪影響がある化学物質が出てくるという情報を見て
心配になりました。
管理栄養士
そうでしたか。それは心配になってしまいますよね。
結論としては、すごく極端に偏らなければ心配は要りません。
偏った場合はこの物質だけではなく栄養過不足など他のリスクもありえます。
ちょっとご説明しますね。
惣菜等が妊娠経過に悪影響という研究の考察
妊娠中の食生活と妊娠経過状況との関連を調べた研究において、
惣菜類や冷凍食品の摂取頻度と死産に関連があることが報告されました1) 。
その研究ではそれらの食生活とビスフェノール-Aの摂取について関連があるのではないかと考察されました。
新聞のWEB記事になったため、ご不安に思う方がいらっしゃるかもしれませんね。
まず、今回考察されたビスフェノール-Aとはどのようなものなのか
みていきましょう。
ビスフェノール-Aとは?
ビスフェノール-A(BPA)とは、おもにポリカーボネート、エポキシ樹脂などの
プラスチックの原料として使用される化学物質です2)。
動物実験で妊娠動物に対して毒性評価よりも低い量の摂取で影響があったとする報告があり、
妊娠中の女性や乳幼児の摂取量が多くならないように注意喚起がなされています 2)3) 。
やっぱり危険なのですね・・・
管理栄養士
ここまでですと、ご不安になってしますよね。
このようなリスクは「量」を考えることが大切です。
もう少し詳しく考えてみましょう。
ビスフェノール-Aが溶出する可能性のあるもの
溶出される可能性があるものは、
・ポリカーボネート食器
・缶詰(エポキシ樹脂で防蝕塗装されたもの)
などがあげられ、それらから飲食物へ移行し、
ビスフェノール-Aを摂取する可能性があると言われています。
しかし、国内で製造されているものについては、以前から違うものに変更したり、
技術改良したりしているので、
現在では飲食を通じて摂取する可能性のあるビスフェノールAは極めて微量とされています 2)。
ポリカーボネート食器
ポリカーボネートは、
おもに電気や自動車の部品などに用いられているものがほとんどです。
硬くて透明な樹脂なので、
まれにガラスの代わりのようにして食器(主にコップ)に使われたりすることがあります2)。
もし、そのような食器があったら、
ビスフェノール‐Aがごく微量ではありますが、溶出される可能性もあるため
、熱湯を注いで長時間置いておかない、電子レンジにかけないようにしましょう。
缶詰(エポキシ樹脂使用)
日本においては食器・容器類の材質として
ビスフェノール-Aの溶出が懸念される材質が使用されることはほとんどなくなっていますが、
強いてあげるなら、成人のビスフェノール-Aの摂取源としては、缶詰が指摘されています2)。
しかし、国内で製造される缶詰めについては
ビスフェノール-Aの溶出についてより厳しい基準が日本製缶協会のガイドラインで策定されており、
飲料缶 0.005ppm以下、食品缶 0.01ppm以下となるように工夫されています 2) 。
食品包装はポリカーボネイト不使用
現状、缶詰以外の食品の包装にはポリカーボネートは使われておらず、
ポリエチレンやポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラートなどが使用されるケースがほとんどです4)5)。
このことから、冷凍食品や惣菜の容器などからビスフェノール‐Aの溶出は考えにくいです。
万一として
ポチエチレンなどの包装容器からのなんらかの流出もゼロとはいえないかもしれませんが、
今回の研究では、包材の種類もわからず、加温方法もわからず、
溶出されていたかなども情報はなく、証明もされていません*1)。
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ビスフェノールAの量と危険性
ビスフェノール-Aの主要な摂取源となっている缶詰から、
日本人は平均1日0.644μg摂取しているという報告があります6) 。
これは何かに影響があるのでしょうか。
成人期などよりも気になるのは胎児への影響や乳児への影響です。
一般向けの影響のデータはもっと高くても問題ないと
されているものはありますが、
心配なので一番厳しい研究データを例にみてみましょう。
例として、動物実験で胎児への影響等が見られた量は0.5μg/kgです*2) 。
動物実験であるため、ヒトの場合にどの程度で影響があるかはわかりませんが、
仮に動物実験での結果と同等であったとして、
50kgの人で25μg量を摂取することにあたるので、
過剰に缶詰を摂取しない限り心配しすぎる必要はないと考えられます。
管理栄養士
単純計算をするならば、例えば0.01ppmの缶詰だとして1日2.5㎏の缶詰を毎日食べ続けるということくらいの話になります。
*0.01ppm=0.01μg/g
そのような缶詰を「1日2.5kg」を「毎日」食べ続けた場合に、「一番厳しい基準である胎児への影響」に該当するかもしれないな(ヒトへの実験はまだ未定)ということですね。
まず2.5㎏を毎日食べ続けることはまずありえないけど・・・いろいろな食品もあるので、トータルとして缶詰などの食べ過ぎに注意とは覚えておきます。
管理栄養士
そうですね。
同じものだけを毎日何キロも食べるというようなことは、このような物質だけではなく、
栄養素の偏りという意味でも心配はあります。
リスクはこういう物質だけではないので、いろいろな意味で注意したいものです。
妊娠中の女性の食生活と妊娠トラブルを統計的に解析した研究
では冒頭で質問者さんがご覧になった研究は、どのような研究だったのでしょうか?
この研究はビスフェノール-Aと死産の関連を調べたものではなく、
食生活について回答してもらった回答と、妊娠経過の実態の関連を調べたもの 1) です。
結果、「惣菜や冷凍食品の摂取と死産に関連があり1)」ましたが、
「食生活のせいで死産になった」ということとは違います。
どういうことでしょうか?
この結果では、惣菜や冷凍食品を食べた群に死産が多いと書いてありますよね?
管理栄養士
結果の数字だけでみるとそうなりますが、他の要因を考えるのが先ですね。
例えば
惣菜を食べざるを得ないくらい具合の体調や生活背景、勤務環境などの環境があるかもしれませんし、これらの食品から何かが溶出されたというデータは存在していないのです。
もちろん
、「ビスフェノール-Aの過剰摂取が原因で死産になった」という結論には全くなり得ません。
惣菜や冷凍食品群に死産が多い とビスフェノール‐Aを結びつけている考察に関しては
・それらの食品にビスフェノール -A が含まれる可能性はとても低い
(ポリカーボネート食器や缶詰ではない。
他素材からでも微量の溶出が見つかったとしても缶詰群では今回結果がでていないことも事実である)
・体内や食品からビスフェノールAが検出されたというようなものではない
と、不明瞭な部分が多いといえます。
問題となる化学物質が容器から出てくることは、そこまで心配しなくて良いのですね!
完全に安心安全とはちょっとまだ思えないこともありますが、
それよりも、同じものを毎日何キロも食べない とか量と頻度を考えることですよね。
管理栄養士
そうですね。容器からの化学物質の溶出を心配しすぎる必要はありません。
今回の試験では缶詰では関係なかったということからもわかりますね。
お弁当や冷凍食品は安心して食べてもらって大丈夫です。
それよりも、食生活は、主食・主菜・副菜とバランスをとっていきたいので、作れない時は市販品を上手に使ってしっかり食べていきましょう。
妊娠期に惣菜や冷凍食品を使うときのポイント
量を考えれば、危険性は極めて低く、今回の研究は、ビスフェノール‐Aと死産を結論付けるには短絡的だっといえるとはいえ、よりよい生活をもとめて、心配になることもありますよね。特に妊娠中には心配になるものです。
心配を少なく惣菜や冷凍食品を使うときのポイントをご紹介します。
パッケージどおりの調理をしましょう
まず大切なことは、食器や容器の材質にかかわらず、表示されている調理方法に従って、正しく調理することです。
今回の研究では、お皿で加熱したのかどうかというような調査も行われておりませんので、包材から溶出されたかも全くわかりませんし、包材からビスフェノール‐Aの溶出は考えにくいですが、その他の衛生面のこともあるので、「正しく調理」は覚えておくといいですね。
電子レンジ加熱不可の容器に入れられたものは、耐熱皿等に移し替えて調理しましょう。
続きを読む: 妊娠中、惣菜や冷凍食品の摂りすぎはダメ?偏った食べ方をしないようにしましょう
正しく調理することはとても大切ですが、それでも心配なら「いろいろなものを食べる」ことも大切です。毎日同じものばかりを多量に食べないいようにしましょう。
発表された研究論文にも、「食生活によるリスク上昇に関するメカニズムは不明であり、ビスフェノール-Aの測定も行っていない 1) 」ことが明記されています。
濃い味付けや油に注意しましょう
惣菜や冷凍食品は油分や塩分が多いものもあります。
いわゆる「味が濃い!」と感じたご経験もあるのではないでしょうか。
妊娠中は体重の増え方に注意が必要になるため、油分が多いものに偏らないようにしたいものです。塩分が濃いものも食べ過ぎたり、むくみなどマイナートラブルの原因の1つになってしまうこともあるので、注意したいですね。
栄養バランスを心がけて野菜も食べましょう
また、妊娠中の食生活では「妊産婦のための食事バランスガイド」にあるように、野菜の摂取も重要になります7)。
惣菜や冷凍食品では、野菜が摂りにくい場合がありますので、
・ 野菜を使った副菜となる惣菜と組み合わせる
・冷凍野菜など簡便に使えるものと組み合わせる
などで、市販品を用いた献立でも栄養バランスを向上させるようにしましょう。
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まとめ
お腹の中の赤ちゃんの様子を見ることはできない日々、色々なことが心配になってしまうかと思います。
妊娠中の食生活では、アルコールやカフェイン、食中毒などいろいろな注意が必要になりますが、
妊娠中に限らず、食事におけるリスクをゼロにすることは極めて難しいです。
管理栄養士
気になるお気持ちは、とても素敵なことですが、怖がり過ぎるといろいろな栄養が摂りにくくなってしまうことも。
リスクが偏らないように、「1つの効果を期待して食べ過ぎない」ことが大切ですね。
そのリスクがどの程度なのかを冷静に判断できれば、
少し気をつけようというくらいで心配になり過ぎずに済むかもしれません。
あくまでも、食生活は、主食・主菜・副菜のバランスが大切です。
そのためにどういう選択をしたらいいのか、心配になりすぎず、
楽しく健康的な食生活が送れるように、その場や環境によって食品を選択していきましょう。
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参考文献
1) Hazuki Tamada, et.al. and the Japan Environment and Children’s Study Group on behalf of the Japan Environment and Children’s Study Group.
「Impact of Ready-Meal Consumption during Pregnancy on Birth Outcomes: The Japan Environment and Children’s Study」. Nutrients 14, no. 4 (2022年1月): 895. https://doi.org/10.3390/nu14040895.
2)厚生労働省.「ビスフェノールAについてのQ&A」. 参照 2022年5月14日. https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/kigu/topics/080707-1.html.
3)食品安全委員会.「食品用器具・容器包装に用いられるビスフェノールAに係る評価手法及び科学的知見(体内動態、毒性、ばく露量、疫学調査等)に関する調査」2020年3月31日https://www.fsc.go.jp/fsciis/survey/show/cho20200010001
4) 日本プラスチック工業連盟. 「食品用プラスチック容器包装の利点」, 日付なし. http://www.jpif.gr.jp/00plastics/conts/riten.pdf.
5) プラスチック容器包装リサイクル推進委員会. 「プラスチックと容器包装」, 2014年5月28日. https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/haikibutsu_recycle/yoki_wg/pdf/012_s09_01.pdf
6)「日本の国内および輸入缶詰食品中のビスフェノールA:食品添加物および汚染物質:パートA:第31巻、第2号」. 参照 2022年5月15日. https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/19440049.2013.874047.
7)厚生労働省.「妊娠前から始める妊産婦のための食生活指針」.参照 2022年5月14日https://www.mhlw.go.jp/content/000788598.pdf
元記事
元ニュース記事(毎日新聞):https://mainichi.jp/articles/20220511/k00/00m/040/127000c
著者執筆の記事一覧
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管理栄養士/母子栄養指導士
子育て家族の食卓研究「FooMiLab」主宰
大手加工食品メーカーでの開発・基礎研究の経験を活かし、赤ちゃんも大人も笑顔になれる食卓づくりについて、レシピ研究・情報発信・教室運営をしています。離乳食相談実績多数。ベビーフード開発・監修実績あります。
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