離乳食の鉄補給 ツナ,レバー,あさり,ライスシリアルは必要?
離乳食ではどのように鉄補給をしたらいいのでしょうか。
あさりやレバーで鉄補給をしたほうがいいのかみていきましょう
離乳食のガイドラインにかかれた鉄補給について
「授乳・離乳の支援ガイド」の2019年度の改訂において、下記のように追記されました。(下記引用)
母乳育児の場合、生後6か月の時点で、ヘモグロビン濃度が低く、鉄欠乏を生じやすいとの報告がある。また、ビタミン D 欠乏の指摘もあることから、母乳育児を行っている母親の食事については、鉄やビタミン D の供給源となる食品を積極的に摂取するとともに、適切な時期に離乳を開始し、進行を踏まえてそれらの食品を意識的に取り入れることが重要である。
これを踏まえ、今までは「生後9ヶ月から」としていたものが、
生後6ヶ月からに変更になりました。
鉄が離乳食期で必要な理由
鉄分(以下、鉄)は赤血球をつくるために必要な栄養素です。
乳児は、たくさん鉄を蓄積されて生まれてきます。この分の鉄を「貯蔵鉄」といいます。
この貯蔵鉄がなくなるのが、生後約6ヶ月頃からといわれていますので、
生後6ヶ月頃から必要になるといわれています。
しかし、貯蔵鉄の80%は妊娠後期に付着するとされているので、
早産児の場合は妊娠後期を不十分に過ごすため、
全身の鉄分が不足した状態で生まれてくると言われています3)ので、
早産児の場合はより多くの鉄が望まれるといえます。
また、乳児における体内での鉄吸収率は、現在エビデンスが乏しく
、一般的には大人の吸収率で算定されており、
このグラフにおいての母乳中の鉄吸収率を20%として計算されています。
しかし、いずれにしても母乳に含まれる鉄は100mlあたり0.04㎎と非常に少ないことから、
やはり生後6ヶ月頃から何らかの鉄摂取は必要といえます。
赤ちゃんに必要な鉄の量
(正しくは「鉄」になりますが、わかりやすく「鉄分」と記載しています)
日本人の食事摂取基準では、鉄の 6-11ヶ月の目安を
・推定平均必要量 3.5㎎/日
・推奨量 5.0㎎(男児)
と定めています。
6-9ヶ月児の哺乳量を0.60L4)としても、鉄0.24㎎5)となり、3.5㎎を摂取するには、
食事で約3㎎も取らなければいけない計算になります。
しかし、これらは、なぜこの数字になるのかご存知ですか?
乳児の体内での鉄吸収率
日本人の食事摂取基準はこのように計算され、吸収率は乳児の吸収率が存在しないことから、
「吸収率 0.15(15%)」というFAO/WHOの一般データを利用しています。
推定平均必要量=〔基本的鉄損失(0.21㎎/日)+ヘモグロビン中の鉄蓄積量(0.28㎎/日)+非貯蔵性組織鉄の増加量(0.01㎎/日)+貯蔵鉄の増加量(0.04㎎/日)〕÷吸収率(0.15)
厚生労働省(2020)日本人の食事摂取基準 2020年版,317.
推定平均必要量は以上の式であらわすとおり、「吸収したい鉄(合計0.54㎎)」を吸収率で割ったものから求められています。
また、推奨量は、推定平均必要量に推奨量算定係数 1.4を掛け合わせた数字(3.5×1.4=5.0)として計算されています。
つまり乳児における鉄の推奨量は不確定要素の積み重ねで算出されているのが現状です。
管理栄養士
鉄を1日3.5㎎をとることは、なかなか難しいですが、吸収率が未定であることを考え、「吸収したい鉄(合計0.54㎎)」を吸収率で割ったもの が目標値であることを頭にいれておき、ヘム鉄、非ヘム鉄、タンパク質など、いろいろな種類をとることがおすすめです。
鉄が多い食材
育児用ミルク、フォローアップミルク
粉乳類には、フォローアップミルクの(平均 1.25mg/100mL)、育児用ミルク(0.85mg/100mL)含まれているので、鉄欠乏の心配はありません。
しかしWHOコードで粉ミルクの推奨は禁止されているため、
「料理に使う」という伝え方が望ましいでしょう。
例えば、料理に50ml程度使えば、0.5㎎ほどは摂れる計算になるので、
ミルク煮などの料理を作る際に、牛乳ではなくミルクを使うのはオススメです。
レバー、赤身肉
鉄が多い食材としては、レバー、貝類、魚などがあげられます。中でもダントツに高いのがレバーです。レバーは肝臓、つまりヘモグロビンが貯蔵されている部位なので、鉄が豊富です。その他、肉や魚を選ぶときは簡単に「赤いところ」と覚えておくといいでしょう。
また、6ヶ月は白身魚しかダメと思っている人も多いですが、厚生労働省は「白身魚から始める」としているだけで、赤身魚は食べたらダメとは言っていません。
鉄補給が気になるなら、鯛やしらすなどのあとは、まぐろやかつお、赤身肉なども少し初めてみてもOKです。
また、レバーのベビーフードもローテーションの中に加えると手軽でいいでしょう。
赤ちゃんだけではなく、鉄をしっかりとりたいのは、授乳婦(ママ)も一緒です。
焼き鳥を購入して、ママとパパはパクっとそのまま、赤ちゃんには、素焼きにしてもらったものを購入するか、
すでに焼いたものなら1個を茹でてからつぶしてもいいので、生レバーよりも処理が簡単。
これもローテーションの1つに加えられるといいですね。
管理栄養士
ただし、妊婦の場合はビタミンAの摂りすぎになるので、毎日食べるなら1個くらいにとどめ、毎日食べすぎることがないように指導しましょう
乳児の場合は、計算上は耐用上限量(600μgRAE/1日)をレバー5gで満たしてしまいます。食事から摂ることによる過剰症は現在のところありませんが、念のため毎日10g以上 食べるなどという多すぎないようにしましょう。
赤身魚(マグロ、ツナ缶)
赤身魚(マグロ、かつお)は、他の魚と比べ、鉄がたくさん含まれます。
水煮の缶詰なら油も気にならず、手軽に利用できます。調味液が気になる場合は、軽くお湯をかけたりすると安心ですね。
【関連記事】めかじきは離乳食で何ヶ月から?赤身魚白身魚の区分も解説
あさり
あさりは、ヘム鉄と書かれているものもありますが、ヘム鉄とは少し構成が異なるため、
非ヘム鉄に分類されます。
食品成分表をみると、あさりの生(100g)よりも
水煮缶詰(100g)のほうが、鉄が7倍以上含まれています。
カロリーで比較すると、生100gと水煮28gがだいたい同じカロリーとなり、そ
の場合であっても、鉄は水煮のほうが倍以上含まれていることとなります。
実際の缶詰の成分をみてみると、
・SSK「あさり水煮」…分析値なし
・マルハ「あさり水煮」…10gあたり1.85㎎ (固形量55gに対し鉄10.2㎎)6)
・HOTEI「あさり水煮」…10gあたり1.51㎎(固形量60gに対し鉄9.1㎎)7)
ということで、食品成分表にあるような高値の商品は見つけることができませんでした。
あさりの水煮と生の違いは、食べているエサ?
文部科学省 科学技術・学術政策局政策課資源室に取材をしたところ、
「あさりの水煮のほうが生に比べてそこまで高いという認識はなかった。いずれも実測値によるものであるので、なんとも答えがたい。
水煮のほうが高い理由は全くわからない。ちなみに5訂は100gあたり37.8㎎であったが7訂で29.7㎎と大きく変動はしている。実測値であるので理由などはわからない」
とのことでした。
缶詰メーカーに問い合わせした3社のうちの1社によると
「おそらく、あさりの繁殖地の土壌の違いによるものであり、食べている藻の影響が大きいと思う。
加熱によって可変するものではないので、生であっても加熱であっても変わらないと思うが、生物個体差であろう」との回答でした。
つまり、水煮にすると栄養価が高くなるというわけではない ので、
鉄補給には「あさりの水煮缶」がよいという結論には達することができません。
妊婦さんなどには手軽なので、是非オススメしたい食材の1つには間違えありませんが、
離乳食にこれだけ食べれば1日の必要量に達するというものではありません。
オートミール
最近日本でも話題のオートミール。海外では離乳食の定番として食べられているものの1つです。
オートミールは計算上鉄が多いですが、食物繊維も多いため、どこまで吸収されるかはわかりません。また含まれるものは非ヘム鉄になります。摂取することは良いことではありますが、鉄補給はオートミールだけで大丈夫というような過信はしないようにしましょう。
ライスシリアル
ライスシリアルは海外の米に栄養を添加したものになります。まず輸入方法が個人輸入代行業者によるものなので、
商品の安全性は日本では保障されていません。
添加物の記載方法などが海外の基準のため
日本では書かれるべき文言がかかれないケースもありますので自己判断でお願いします。
離乳食の鉄は何からとればいい?
離乳食には、従来どおりレバーや赤身の魚、肉に加えて、ミルクをつかったミルク煮などにして、
無理なく鉄を補えるといいでしょう。
また先述のとおり、吸収率は不確定なことが多いので、いろいろなものから鉄を摂っていくこと、
母乳だけでは鉄が不足することを伝えていきましょう。
管理栄養士
すなわち、やはり「野菜も肉もバランスよく食べましょう」という従来どおりのざっくりとした栄養指導がとても効果的といえるのではないでしょうか。
測定誤差や吸収率を考える大切さ
成分表上で、「〇〇が鉄が豊富」ということが判明したとしても、あくまでも自然界でのこと。
ヘム鉄なのか、非ヘム鉄なのかで吸収率もことなるとおり、体内の吸収率なども考えると、未知数の部分も大きいことがあります。
あまり成分だけを追い求めすぎず、本来のざくっとした離乳食相談の中で「ごはん、タンパク質、野菜をバランスよく」ということを伝えていきたいですね。
ただし、「1歳までは母乳だけで育てたい!」という方の場合は、要注意です。
その場合は、離乳食を6ヶ月くらいからはスタートしたいことを伝えられるようにできたらいいですね。
また母乳が出ないから心配という方には「鉄分が摂れるから安心なのよ」と伝えてあげたりすることも有効かもしれません。
同じ情報でも使い方によって、お母さんの不安をあおるほうにも、ほどよく改善するほうにもなるでしょう。
その人の生活にあった見方で、適宜よりそったアドバイスをしていきたいものです。
参考文献
1)World Health Organization,Complementary feeding: family foods for breastfed children,2000
2)日本ラクテーションコンサルタント協会 編 補完食Complementary Feeding
3)Diagnosis and Prevention of Iron Deficiency and Iron-Deficiency Anemia in Infants and Young Children (0–3 Years of Age),This Policy Is A Revision Of The Policy In 104(1):119
4)日本人の食事摂取基準「表 7 乳児におけるたんぱく質の目安量の算出方法 」
5)日本食品標準成分表2015年版(七訂)追補2017年
6)マルハ「あさり水煮」
7)HOTEIお客様相談室への電話取材による調査
8)渡辺 優奈,1 年以上授乳を続けた女性の鉄栄養状態 ─妊娠初期から授乳期および卒乳後までの縦断的検討─,栄養学雑誌 Vol.74 No.4 89~97(2016)
著者執筆の記事一覧
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一般社団法人 母子栄養協会 代表理事
女子栄養大学 生涯学習講師
NHK「すくすく子育て」他 出演
女子栄養大学 卒(小児栄養学研究室)。企業にて離乳食の開発を行ったのち独立、管理栄養士として多くの離乳食相談を聞き、母親に寄り添った講演会を開いている
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