乳幼児の鉄摂取の必要性 -赤ちゃんの鉄分補給-

本記事は専門家向けに記載したものであり、育児をされているお母さんお父さん向けではありませんのでご了承ください。

乳幼児に鉄摂取が必要といわれている理由

「授乳・離乳の支援ガイド」の2019年度の改訂において、下記のように追記されました。(下記引用)

母乳育児の場合、生後6か月の時点で、ヘモグロビン濃度が低く、鉄欠乏を生じやすいとの報告がある。また、ビタミン D 欠乏の指摘もあることから、母乳育児を行っている母親の食事については、鉄やビタミン D の供給源となる食品を積極的に摂取するとともに、適切な時期に離乳を開始し、進行を踏まえてそれらの食品を意識的に取り入れることが重要である。

これを踏まえ、今までは「生後9ヶ月から」としていたものが、生後6ヶ月からに変更になりました。

では、なぜ、鉄分が必要なのでしょうか。

鉄の役割と必要性

鉄は赤血球をつくるために必要な栄養素です。

鉄は、からだに入ると、その約7割が赤血球の中のヘモグロビンの成分となります。ヘモグロビンは酸素を体じゅうに酸素運びますので、いわゆる、酸素の運搬屋です。また、脳の中で情報を伝える神経伝達物質にもなります。

すなわち、人間の成長には欠かせない栄養素です。

乳児(赤ちゃん)は、この鉄を、生まれたときに既にたくさん蓄積されて生まれてきます。

この分の鉄を「貯蔵鉄」といいます。この貯蔵鉄がなくなるのが、生後約6ヶ月頃からといわれています。

下記の図は、以前にもこちらの記事(2018年10月)で書きましたが、WHOが発表している、6か月頃から貯蔵鉄がなくなるという説明です。
鉄分不足 母乳

その中で母子栄養協会は、

乳児期においても、現行、母乳から一般的な離乳食を始めた場合における貧血患児がそれほど多くないことから、吸収率についてのさらなる研究が望まれるのではないでしょうか。

というように発表いたしました。あくまでも仮説です。

しかしながら、これはあくまでも吸収率をふまえて仮説をもとになりたっているグラフであるので、なんと、母乳中の鉄吸収率を20%として計算されています。

ちなみに貯蔵鉄の80%は妊娠後期に付着するとされているので、 早産児の場合は妊娠後期を不十分に過ごすため、全身の鉄分が不足した状態で生まれてくると言われています3)ので、早産児の場合はより多くの鉄が望まれるかもしれません。

いずれにしても、乳児における体内での鉄分吸収率は、エビデンスに乏しいと筆者は考えており、鉄の吸収率を20%と考えている根拠がみつけられませんでしたが、100%とも言えないかもしれません。いずれにしても母乳に含まれる鉄は100mlあたり0.04㎎と非常に少ないことから、やはり生後6ヶ月頃から何らかの鉄摂取は必要といえるでしょう。

鉄はどのくらい必要なのか

日本人の栄養所要量では、6-11ヶ月の目安を 鉄の推定平均必要量 を 3.5㎎/日 と定めています。

6-9ヶ月児の哺乳量を0.60L4)としても、鉄0.24㎎5)となり、3.5㎎を摂取するには、食事で約3㎎も取らなければいけない計算になります。

鉄が多い食材

レバー 豚レバー

・レバーや赤身の肉魚

鉄が多い食材としては、レバー、貝類、魚などがあげられます。中でもダントツに高いのがレバーです。レバーは肝臓、つまりヘモグロビンが貯蔵されている部位なので、鉄が豊富です。その他、肉や魚を選ぶときは簡単に「赤いところ」と覚えておくといいでしょう。

また、6ヶ月は白身魚しかダメと思っている人も多いですが、厚生労働省は「白身魚から始める」としているだけで、赤身魚は食べたらダメとは言っていません。鉄補給が気になるなら、鯛やしらすなどのあとは、まぐろやかつお、赤身肉なども少し初めてみてもOKですよ。(ただ、育児本などの相違で迷っていまうお母さんもいるので、7か月から赤身という指導のほうが混乱がなくていいかとは思います。その場合は育児用ミルクをオススメします)

  10gあたり
鉄(㎎)
鶏レバー 0.9
豚レバー 1.3
牛レバー 0.4
あさり(生) 0.38
あさり(水煮缶) 2.97
かつお 0.19
めばちまぐろ(赤身) 0.09

粉乳類には、フォローアップミルクの(平均 1.25mg/100mL)、育児用ミルク(0.85mg/100mL)含まれているので、鉄欠乏の心配はありません。例えば、料理に50ml程度使えば、0.5㎎ほどは摂れる計算になるので、ミルク煮などの料理を作る際に、牛乳ではなくミルクを使うのはオススメです。

また、レバーのベビーフードでも鉄分が摂れると思いますので、ローテーションの中に加えると手軽でいいでしょう。

焼き鳥のレバーを家族で一緒に食べてみよう

赤ちゃんだけではなく、鉄をしっかりとりたいのは、授乳婦(ママ)も一緒です。

焼き鳥を購入して、ママとパパはパクっとそのまま、赤ちゃんには、素焼きにしてもらったものを購入するか、すでに焼いたものなら1個を茹でてからつぶしてもいいので、生レバーよりも処理が簡単。これもローテーションの1つに加えられるといいですね。

*ただし、妊婦の場合はビタミンAの摂りすぎになるので、1個くらいにとどめます。

あさりの水煮は、生と比べて鉄が多く摂取できる理由

上の表をみると、あさりの生よりも缶詰のほうが、鉄が7倍以上含まれていることがわかります。

では、実際の缶詰の成分をみてみると、

・SSK「あさり水煮」…分析値なし

・マルハ「あさり水煮」…10gあたり1.85㎎ (固形量55gに対し鉄10.2㎎)6)

・HOTEI「あさり水煮」…10gあたり1.51㎎(固形量60gに対し鉄9.1㎎)7)

ということで、食品成分表にあるような高値の商品は見つけることができませんでした。

文部科学省 科学技術・学術政策局政策課資源室によると、

「あさりの水煮のほうが生に比べてそこまで高いという認識はなかった。いずれも実測値によるものであるので、なんとも答えがたい。水煮のほうが高い理由は全くわからない。ちなみに5訂は100gあたり37.8㎎であったが7訂で29.7㎎と大きく変動はしている。実測値であるので理由などはわからない」

とのことでした。

缶詰メーカーに問い合わせした3社のうちの1社によると

「おそらく、あさりの繁殖地の土壌の違いによるものであり、食べている藻の影響が大きいと思う。加熱によって可変するものではないので、生であっても加熱であっても変わらないと思うが、生物個体差であろう」との回答でした。

つまり、水煮にすると栄養価が高くなるというわけではない ので、鉄分補給には「あさりの水煮缶」がよいという結論には達することができません。

妊婦さんなどには手軽なので、是非オススメしたい食材の1つには間違えありませんが、離乳食にこれだけ食べれば1日の必要量に達するというものではありません。

離乳食には、従来どおりレバーや赤身の魚、肉に加えて、ミルクをつかったミルク煮などにして、無理なく鉄を補えるといいでしょう。

また、非ヘム鉄としてほうれん草などがあげられますが、動物性たんぱく質やビタミンCと合わせてとると吸収率があがります。

すなわち、やはり「野菜も肉もバランスよく食べましょうね」という従来どおりのざっくりとした栄養指導もとても効果的といえるのではないでしょうか。

最後に

成分表上で、「何が鉄分が高い」ということが判明したとしても、あくまでも自然界でのこと。

体内の吸収率なども考えると、未知数の部分も大きいことがあります。あまり成分だけを追い求めすぎず、本来のざくっとした離乳食相談の中で「ごはん、タンパク質、野菜をバランスよく」ということを伝えていきたいですね。

「1歳までは母乳だけで育てたい!」という方もいらっしゃるので、その場合は、そっと鉄不足の話から離乳食を6ヶ月くらいからはスタートしたいことを伝えられるようにできたらいいですね。

また母乳が出ないから心配という方には「鉄分が摂れるから安心なのよ」と伝えてあげたりすることも有効かもしれません。

同じ情報でも使い方によって、お母さんの不安をあおるほうにも、改善するほうにも使えます。

是非、その人の生活にあった見方で、適宜よりそったアドバイスをしていいたいものです。

【参考資料】

1)World Health Organization,Complementary feeding: family foods for breastfed children,2000
2)日本ラクテーションコンサルタント協会 編 補完食Complementary Feeding
3)Diagnosis and Prevention of Iron Deficiency and Iron-Deficiency Anemia in Infants and Young Children (0–3 Years of Age),This Policy Is A Revision Of The Policy In 104(1):119
4)日本人の食事摂取基準「表 7 乳児におけるたんぱく質の目安量の算出方法 」
5)日本食品標準成分表2015年版(七訂)追補2017年
6)マルハ「あさり水煮」
7)HOTEIお客様相談室への電話取材による調査
8)渡辺 優奈,1 年以上授乳を続けた女性の鉄栄養状態 ─妊娠初期から授乳期および卒乳後までの縦断的検討─,栄養学雑誌 Vol.74 No.4 89~97(2016)

プロフィール

川口由美子
川口由美子
一般社団法人 母子栄養協会 代表理事
女子栄養大学 生涯学習講師
All About 「離乳食」「幼児食」「妊娠中の食事」ガイド

女子栄養大学 卒(小児栄養学研究室)。企業にて離乳食の開発を行ったのち独立、管理栄養士として多くの離乳食相談を聞き、母親に寄り添った講演会を開いている
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