補完食とは?離乳食何が違う?
補完食という言葉を聞いたことがありますか?離乳食の補食とは別の意味です。
筆者は補完食も離乳食も本来同じ意味であり、
補完食の考えを採用したものが日本の離乳食の考えと考えていますが、
誤解をされていらっしゃる方が多いのかもしれませんね。
今回は、補完食についてまとめました。
補完食とは
「補完食」とは、WHO(世界保健機関)が提唱している
、 母乳だけでは足りなくなる栄養を補うための食事のことです。
いわゆる日本でいうところの「離乳食」に該当します。
英語では Complementary Feeding といい、Complementary (補う、補完する)の食事という意味です。
補完食の食べ物は、Complementary food とも言われます。離乳食は英語でそのまま訳すと、Weaning Food となります。1)
Weaningとは「乳離れ」を意味することになってしまうのですが、
本来日本でも、「離乳食とは乳から離れることではないので誤解には気を付けたい」ということが、
授乳・離乳の支援ガイド2019年を策定する会議2)でも課題として挙げられていました。
離乳食とは
離乳食とは、厚生労働省科学研究班がだしている「授乳・離乳の支援ガイド」で用いられている言葉であり、
日本では古くから使われています。
母乳やミルクをやめる意味ではない3)とされていながらも、
文字から母乳やミルクをやめるかのようにとらえられてしまいがちで誤解もあるかもしれません。
補完食と離乳食の違い
補完食は離乳食と何が違うのでしょうか?簡単に表でまとめました。
離乳食 | 補完食 | |
おもな範囲 | 日本 | 発展途上国を含む全土 |
発信元 | 厚生労働省 | WHO(世界保健機関) |
言葉の意味 | 母乳又はミルクだけでは 補えない栄養を補完する食事 | 母乳だけでは 補えない栄養を補完する食事1) |
卒乳 | 離乳完了とは母乳やミルクを やめることではない3) | 母乳は2歳までが望ましい1) |
食事の内容 | おかゆから始め、慣れてきたら じゃがいもやにんじん等の野菜、果物、 さらに慣れたら豆腐や白身魚、 固ゆでした卵黄など、種類を増やしていく。 | その土地にあるもので幼いこどもに適したもの。 衛生的なもの 栄養価の高いもの |
食事の始め方 | 新しい食材は1さじずつ与え、 子どもの様子をみながら 量を増やしていく3)。 | 小スプーン2~3杯から始め、 徐々に量と種類を 増やしていきます1)。 |
食事の量 | 量の目安はあるが、 子どもの成長・発達の状況に応じて調整する としている3)。 | 食事の量は問わない。 |
食事の回数 | 5-6ヶ月頃は1日1回程度から少しずつ2回に増やし、 生後9ケ月頃から3回程度に増やす3)。 12ヶ月からは3回と補食を足すとよい。 子どもの成長・発達の状況に応じて調整する | 生後6-7ケ月の母乳児には1日3回。 12ヶ月までに1日5回へと増やします。 |
細かいと思われがちな離乳食
補完食と離乳食は同じ意味ですが、それらの違いを強いて言うなら、
本来の離乳食とは同じであるが、離乳食はこうあるべき…と限定的に難しく伝えているメディアなどが増えてしまったため、
・離乳食は細かい決まりが面倒
・離乳食は量を守らなければいけない
というような誤解が生じてしまったことが考えられます。
補完食はエネルギー重視
離乳食は、なんでも最初は1さじから、翌日は2さじ…など細かいルールが本当はないにもかかわらず、
SNSやメディアなどでそのように伝えられているため、
赤ちゃんにしっかり栄養を摂ってもらいたいという願いを込めて、
栄養不足が心配してほしいため、あえて海外でいうところの『補完食』を提唱している
ということがいえるかと思います。
離乳食では栄養がない、補完食のほうが栄養があるなどと言われることがありますが、
赤ちゃんの食事は「食べやすさ」も影響します。
最初の頃はペースト状になりますので、食事のエネルギーの濃度(カロリーの多さ)は少しゆるやかなので、
野菜などは母乳よりエネルギー(カロリー)が低いことも考えられます。
補完食はいつから始める?
WHOが提唱する補完食は、生後6カ月頃からとし、
日本の厚労省の離乳食では、生後5・6カ月頃~としていますが、
日本でも5カ月からではないといけないというわけではなく、
「6カ月からしっかり食べられるように5カ月頃にスタートしてもいいですよ」という意味です。
どちらがいい、どちらが悪いではなく、
6カ月では少しでも多く食べられるように支援をしていきましょう。
補完食と離乳食は同じ
本来の「離乳食」の考えは、細かく決められていることはあまりありません。
赤ちゃんの成長や発育に沿って食べる量などは調整する3)とされていますので、
量も気にしなくて構いません。
ガイドラインに書いてある通り、離乳食とは栄養を補完する意味 とあるので、どちらも同じです。
離乳食も補完食も本来同じであること、ちょっと考え方が異なる点と理由については 離乳食アドバイザー養成講座(▶コチラ)でお話ししています。
離乳食の定義にも含まれる補完食の考え
2019年厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」3)では、離乳食について下記のように定義されています。
離乳とは、成長に伴い、母乳又は育児用ミルク等の乳汁だけでは不足してくるエネルギーや栄養素を補完するために、乳汁から幼児食に移行する過程をいい、その時に与えられる食事を離乳食という。
厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」,2019
この中の「補完するために」という言葉は2019年改訂で加わった言葉であり、日本の離乳食も「エネルギーや栄養素を補完するために」と考えています。
なので、基本的な考え方は同じであると考えます。
補完食の考えをとりいれた離乳食
補完食だから、離乳食だから…という違いはありませんが、離乳食は細かいという誤解がありがちですので、補完食の考え方を採用した離乳食が必要でしょう。
赤ちゃんに対して誰しもが食事に不安は覚えるものです。そこでの混乱はなるべくさけるようにしましょう。
管理栄養士
考え方を否定したりするのではなく、赤ちゃんが大きくなっているか、食事を食べることに問題がなさそうかをしっかり観察しましょう。離乳食の量や回数は、赤ちゃんの成長、発達、食欲などで調整して欲しいのです。
離乳食の回数・量は目安と考える
一般的な「離乳食」の本では食事の回数や量を〇gを〇回と、
まるで決まり事のように書いてあることがあります。
筆者は、いろいろな離乳食の本を書いていますが、それらも同じです。
ただ、基本的にそれを守ってほしいとは思っておらず、「あくまでも目安量」なのです。
補完食も離乳食も量は決まっていない
補完食は量が決まっていないので簡単ともいわれますが、
「どれだけもいいと言われてしまうと、本当にこれだけ食べていいの?」と心配になる保護者もいます。
例えば、何も目安がなく、「お子さんが欲しがる分だけ」となってしまうと、
とかく「どれだけ食べさせたらいいのかわからない」という質問が来てしまいがちです。
そこで「授乳・離乳の支援ガイド」には目安量が書いてあるというわけなのです。
つまり、この離乳食の目安量に関しては科学的根拠は薄く、
母乳やミルクの量や赤ちゃんの活動量で大きく変わります
ので、離乳食でも量は気にしなくていいでしょう。
補完食も離乳食も摂りたい栄養は同じ
日本の離乳食の本では、10倍がゆから始めると書いてあるものが多いですが、
本来「授乳離乳の支援ガイド」では「つぶしがゆ」と書いてあります。
つまり、つぶした粥である必要があります。スプーンを傾けたら、ボタッと落ちるくらいのヨーグルト状にします。
あまりにも薄い、水のような粥で、1さじ、2さじ…とカウントしていると、栄養が足りなくなってしまいますので、注意しましょう
これも、補完食でも栄養でも同じことです。
食欲に応じて回数を変える
赤ちゃんが大きくなるための摂りたい栄養がありますが、なかなか赤ちゃんが食べてくれない時がありますよね。
そのような時は、回数を増やしても大丈夫です。
あくまでも、回数×量を提示して1日にこのくらい食べてねという目安にしているのですから、1回目の食事でほとんど食べなかったのであれば、食べそうな時間にもう1回あげてもいいのです。
離乳食と補完食の基本
「既存のものと違う新しい方法」という言葉は、時にセンセーショナルで、
何か今までのものが間違えていたのかと不安になってしまったりすることもあるかと思います。
例えば、「離乳食では栄養がとれないのか」と不安に思ったりするかもしれませんが、
そのような必要はありません。
離乳食や補完食で気を付けたいのは
・赤ちゃんが大きくなっているのか
・赤ちゃんが元気か
ということです。
アレルギーに関しては卵はよく加熱したものを
補完食には、基本的にアレルギーに対しての細かい指針がありません。
離乳食のガイドライン3)にあるように「固ゆでの卵黄から始める3)」という点は、アレルギーの観点からも加えて考えていくほうがいいでしょう。
【関連記事】赤ちゃんの成長を考えた「補完食」始め方やスケジュール
離乳食・補完食の栄養バランス
おもしろいもので、栄養は単体では吸収しにくいものが多いです。
例えば、鉄をとったつもりでも、いろいろな阻害要因などもあります。
〇〇を食べれば鉄が補えるというように考えるのではなく、
そのようなことをトータル的に考え、
「穀類、野菜、魚・肉も食べるほうがトータルで健康が維持できる」と考えたいものです。
例えば、鉄などは身体が欲したり、食べ合わせによって吸収率があがったりもします。
単体で栄養を補うのではなく、いろいろなものを試してみましょう。
離乳食は「赤ちゃんが食べられるもの」を1つでも多くみつける旅のようなものです。
「食べられなかった」「嫌い」に目を向けるのではなく「食べられるものあるかな?」と見つける感覚で、いろいろなものを食べてみてくださいね。それが本来の離乳食です。
離乳食でも補完食でも、おかゆを先に食べた方がいい、
肉を先に食べた方が良い・・・・なども決まってはいません。
ただ、主食(穀類)、野菜類、主菜(肉魚類)があるかは常に意識しながら、最初はヨーグルト状のポターっとしたもののほうが食べやすいでしょう 。
そのためにつぶしたおかゆや肉魚、野菜などをなめらかにしたものが食べやすいのではないでしょうか。
離乳食が細かくて面倒だと思ったら
「離乳食は細かくて嫌だ」と思ったら、それはレシピ本や読んでいる媒体が細かいだけかもしれません。
離乳食のレシピ本はあくまでも参考に
離乳食のレシピ本はあくまでも「作り方の参考」です。
どうしても1回あたりの量になると少ない量になってしまいます。例えばそれを3倍量で作ってまるで1回量のようにレシピを書いてしまうと、見る側が「こんなに食べられない」と思ってしまうことも考えて、だいたいの1回量で作られています。
しかしながらこのレシピの1回量を守ってください。というものではありません。
大人のレシピでも1回量をアレンジしたり、多くて食べきれないことはありますよね?
レシピどおりにしっかり分量をはかって、これ以上はあげてはいけない…と思わないようにしましょう
離乳食も補完食も 本来細かいことは何も決まっていないのです。
>> 母子栄養協会の「離乳食アドバイザー」で 離乳食 を しっかり学びましょう
おすすめ本「赤ちゃんのための補完食入門」
補完食について気になる方は、筆者が監修した「赤ちゃんのための補完食入門」もありますので、お読みください。
参照文献
1)GUIDING PRINCIPLES FOR COMPLEMENTARY FEEDING OF THE BREASTFED CHILD,WHO
2)「授乳・離乳の支援ガイド」改定に関する研究会 第3回議事録
3)授乳・離乳の支援ガイド 2019年,厚生労働省
著者執筆の記事一覧
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一般社団法人 母子栄養協会 代表理事
女子栄養大学 生涯学習講師
NHK「すくすく子育て」他 出演
女子栄養大学 卒(小児栄養学研究室)。企業にて離乳食の開発を行ったのち独立、管理栄養士として多くの離乳食相談を聞き、母親に寄り添った講演会を開いている
著者の記事
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