野菜の皮には栄養があるから食べたほうがいいってホント?
「野菜の皮には栄養がある」「皮のほうが栄養が多い」などと聞いたことはありませんか?
筆者は管理栄養士ですが、果たしてそうなのかと毎回聞くたびに疑問があります。
最終的には
「野菜の皮にも栄養はあり、特に食物繊維は多い。
それがゆえに食べにくいこともある。
しかし皮も有効活用すると環境にもやさしい」
が筆者の回答になります。
なぜそのような回答になるのか、その理由や考え方を解説します。
野菜の皮の栄養価
野菜の皮の栄養価について考えていきましょう。
なぜ野菜の皮に栄養が集まるのか
野菜の皮に栄養が多く含まれている理由は、
野菜が成長する過程で外界から自身を守るために、皮の部分にさまざまな栄養素を集めているからとされているようで、
そのような理由がネット上で多く散見されます。
しかしながら、これを語る上での「栄養素」とはなにかを考える必要があるでしょう。
にんじんの皮の栄養価
にんじんは皮つき100gと皮なし100gとで栄養を比べると、
皮つきのにんじんは、皮なしと比べると、エネルギーも若干高く、食物繊維は多いといえます。
カリウムなども多いです。
しかしながら、葉酸やビタミンC、タンパク質などはほとんど変わらず、
むしろ若干ですが皮なしのほうが多いともいえます1)(下表)。
次にいわゆる皮以外の部分と、皮のみで比較します。両方ともを100gあたりの皮の量ともいえる可食部8gで計算しました2)。
皮に多いのは、食物繊維、カリウム、カルシウムであることがわかりました。
管理栄養士
たしかに、野菜の皮には、いわゆる中身とは違い食物繊維は多く含まれているでしょう。
それはゴソゴソゴワゴワとしている感覚からも、なんとなく体感もしますよね。
にんじんの中身に一部栄養が少ないところも?
にんじんの皮には、一部の栄養が中身よりも多いことがわかりましたが、なぜそうなるのでしょうか。
理由はいくつかあると思います。
例えば、外界から守るために硬くカバーする必要があり、食物繊維が増えるのでしょう。
エネルギーなどはなぜ中身よりも皮の部分のほうが多いのかというと
、それは中身には「水を吸い上げる部分」があるということです。
にんじんは「根」ですので、土から水を吸い取って上にあげる部分があります。
その水の通り道は、下図の白丸囲みのとおり、にんじんの真ん中を通っているので、
中央部分は少し水が多いといえます。
葉の光合成によって生産された栄養分は下図の白い丸囲み以外のところにあるので、
その部分は少し栄養分が多いといえるかもしれません。
これが「皮の近くには栄養が多い」の所以かもしれませんね。
ナスの皮の色素「アントシアニン」
ナスは皮が紫色であり、中の薄い色とは全く別色を呈しています。
この紫色はアントシアニン色素によるものです。アントシアニン色素はいわゆるポリフェノールの一種です。
ポリフェノールとは植物ほぼすべてが持っている色素などの成分をさします。
いわゆる食品成分表には掲載されていないものですが、さまざまな健康効果などがうたわれることが多いのが特徴です。
たとえばアントシアニンなどは果物のベリー系などにも含まれ、目に良いなどとされています。
また最近の研究ではナスのヘタに含まれる天然化合物(9-oxo-ODAs)に、子宮頸癌細胞に対して抗腫瘍効果があるともされました。
食べ物にはいろいろな病気に対する効果が期待できるものもあるようでうれしいニュースですが、
ヘタを食べるのではなくエタノールにつけたりするものであり、
ヘタを食べても効果が得られるとはいいがたいものです。
このように、皮など捨てる部分にも、食品成分表では得られない、なんらかの栄養はあるかもしれません。
かぼちゃやズッキーニ、きゅうりなども皮と中では全く色が違います。
このように色が全く違うものは、
その色はポリフェノールの一種なのでなんらかの栄養は期待できるとはいえそうです。
管理栄養士
ここでポリフェノール類の栄養を「なんらかの栄養」と表現している理由は、食品成分表に掲載がないこと、およびさまざまな研究がなされていることや種類も豊富であることなどを判断したうえで、あえてこのような表現にしています。
【関連記事】ボーンブロススープとは?離乳食につかったほうがいいの?
皮ごと食べるときの注意点
野菜の皮には、一部の栄養が若干多く含まれていることがわかりましたが、
皮ごと食べる際にはいくつかの注意点があります。
その中でも、特に重要なのが土壌から来る菌の問題と、
野菜の皮を適切に洗浄する方法です。
これらを理解し、正しく対応することで、
野菜をより安全に、そして美味しくいただくことができます。
皮に潜む土壌の菌
野菜は生長する過程で土壌の中に存在する様々な微生物にさらされています。
これらの微生物の中には、ヒトにとって有害な菌も含まれることがあります。
たとえばボツリヌス菌芽胞なども土壌には含まれています。
芽胞は通常ヒトの中で増殖することはありませんが、まだ食事量が少ない乳児(1歳以下等)の場合は、芽胞を増殖させてしまうことがあります。
芽胞は加熱をしても死滅しませんので、1歳以下には土を食べさせないように配慮が必要です5)。
土の中には、それだけではなくほかにもさまざまな菌や虫がいることもあるので注意しましょう。
特に、生で食べる野菜や、皮ごと食べる場合には、これらの微生物による健康リスクを避けるために、
適切な洗浄が必要になります。
管理栄養士
野菜の皮を安全に食べるには、しっかりとした洗浄が欠かせません。
流水で表面の土や汚れを洗い流し、皮の表面を優しくこすり、残った土壌の微粒子や汚れを除去しましょう。
じゃがいもの皮には毒性も?
じゃがいもの皮には注意が必要です。
皮が緑色になっているものや、芽などには、ソラニンやチャコニンという天然毒素があります4)。
これらを多く含むジャガイモを食べると、吐き気や下痢、腹痛、めまいなどの症状が出ることがあります4)。
じゃがいもの皮はしっかりむき、芽もとりのぞきましょう。
野菜の皮をむくメリット
野菜の皮をむくことには、いくつかのメリットがあります。これらのメリットは、食感の向上や衛生面などに関連しています。以下、詳しく解説していきます。
食感がおいしく食べやすく
野菜の皮をむく大きなメリットの一つは、食感がより良くなり、食べやすくなることです。
特に子どもは、野菜の皮の硬さや繊維質が気になることがあります。
例えば、にんじんは、皮をむくことでより柔らかく、食べやすくなります。
また、皮をむいた野菜は調理しやすくなり、料理の幅も広がります。
衛生的
野菜の皮をむくことには、衛生面でのメリットもあります。
野菜の皮は土壌や水、空気など、さまざまな環境に触れているため、表面には土壌の菌や農薬、汚れなどが付着していることがあります。
これらを徹底的に洗浄することも重要ですが、皮をむくことでこれらのリスクをより効果的に低減できます。特に、小さなお子様や免疫力が弱い方にとっては、野菜をより安全に食べるための手段となるでしょう。
野菜の皮を使うメリット
さて、このように野菜の皮にも中身にも栄養がそれぞれあることがわかりました。
野菜の皮を有効活用することは下記の3点が考えられます。
煮くずれしにくい
かぼちゃやズッキーニ、ナスなどは、皮をついたまま調理すると、煮くずれしにくいのでオススメです。
皮をむいてしまうと、これらの野菜は煮くずれて食べにくく
トロトロになってしまうことがあるので、
食感や形を残したいときには皮をのこしておくといいでしょう。
また、皮の硬さが気になる場合は、皮をまだらにむくのもいいでしょう。
スープストックとして有効活用!(1歳以上)
乳児以外には野菜の皮などを茹でてスープストックを作ることができます。
いろいろな皮をまとめて水から茹でるとおいしい出汁になります。
なかなか皮だけを集めるのが難しいので、冷凍保存しておくといいですね。
乳児にはボツリヌス菌芽胞の予防のため、あえてしなくてもいいかと思います。
(現状 厚生労働省で禁止しているのははちみつだけですが
土壌にも生息するので念のため5))
フードロスを考えるきっかけに
地球上の資源を無駄にしないためにも、皮を捨てる前にちょっと考えなおしてみるといいですね。
例えば、
うさぎなどのペットにあげる、
家庭菜園の肥料とする
などの活用方法があると、いいと思いますし、
必要におうじて皮の部分を少しでも薄く削る心がけをすることで、地球にも優しい食べ方ができるでしょう。
まとめ
野菜の皮は、食物繊維やカリウムが多いことがわかりました。また皮の色が違うものはポリフェノールも多いといえるでしょう。
しかしながら、それとは裏腹に、
食物繊維が多いがゆえに食べにくいというデメリットもあります。
野菜の皮に栄養だけを意識するのではなく、
食べやすいかどうか、衛生的かどうかにも十分配慮します。特にじゃがいもは皮ごと食べる際には十分に注意をしましょう。
例えば、皮を付けて調理することで煮くずれを防ぐなどの利点もありますので、
野菜の皮は適宜必要に応じて試してみるといいですね。
参考文献
1)文部科学省,日本食品標準成分表(八訂)増補2023年
「(にんじん類) にんじん 根 皮なし 生」と「(にんじん類) にんじん 根 皮つき 生」の可食部100gで計算比較。廃棄率の皮つきの場合は、上のヘタ部分を廃棄するので3%、皮なしの場合は皮も廃棄するので10%としている。
2)文部科学省,日本食品標準成分表(八訂)増補2023年
「(にんじん類) にんじん 根 皮なし 生」と「(にんじん類)にんじん 根 皮 生」の可食部8gで計算比較。8gは一般的なにんじん100gあたりの皮の重量と仮定したもの。にんじん皮なしは皮を廃棄するので10%とし、使用量と可食部が異なる。
3)Kazumasa Mogi,ナスから発見された天然化合物が 子宮頸癌細胞への抗腫瘍効果を発揮することを実証,名古屋大学
4)農林水産省,安全で健やかな食生活を送るために 食中毒から身を守るには 知識があればこわくない!天然毒素 ジャガイモ中の天然毒素による食中毒(2024年4月17日閲覧)
5)厚生労働省,食中毒-ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから(2024年4月17日閲覧)
著者執筆の記事一覧
-
一般社団法人 母子栄養協会 代表理事
女子栄養大学 生涯学習講師
NHK「すくすく子育て」他 出演
女子栄養大学 卒(小児栄養学研究室)。企業にて離乳食の開発を行ったのち独立、管理栄養士として多くの離乳食相談を聞き、母親に寄り添った講演会を開いている
著者の記事
- 2024年11月15日コラムくるみアレルギーが食物アレルギー原因物質2位に!
- 2024年10月12日コラム日本人の食事摂取基準(2025年版)乳幼児での変更点等を解説
- 2024年10月4日コラム野菜ジュースはどんな栄養がある?野菜の代わりになる?管理栄養士解説
- 2024年9月16日コラム子どもの偏食や好き嫌いはどうする?解決策を管理栄養士が解説