日本人の食事摂取基準(2025年版)乳幼児での変更点等を解説
日本人の食事摂取基準(2025年版)が2024年10月11日に厚生労働省から開示されました。
何がどうかわったのか、これらをどのように考えていったらいいのか、考えていきましょう。
ここでは乳幼児(0-5才)に関して、管理栄養士が解説します。
はじめに
この記事は、大切な栄養を解説するものではありません。
2020年も2025年も、
エネルギー量、たんぱく質量、その他に大きな違いはありません。
今回は、違いについて説明しています。
0-5ヶ月のおもな変更点(食事摂取基準2020年と2025年の比較)
2020年版 | 2025年版 | ||
亜鉛(mg/日) | 目安量 | 2 | 1.5 |
モリブデン(μg/日) | 目安量 | 2 | 2.5 |
亜鉛の目安量が減少した理由
0~5ヶ月の計算の上で、母乳に含まれる亜鉛量が2.01から1.65㎎/Lに変更になりました。
これにより、食事摂取基準の乳児の目安量は、母乳の栄養量から換算されているため、
目安量も変更になりました。
管理栄養士
母乳の質が落ちた等というようなことではありません。
ヨウ素
今回の変更点ではありませんが、食事摂取基準というのものの在り方を説明する上で
特徴的な事例がいくつかありますが、
その1つが乳児のヨウ素です。
日本人の母乳中のヨウ素濃度は高く、
母乳を普通に飲んでいた場合(0.78 L/日)でも、147µg/日となります。
これが本来、母乳のみで成長する日本人乳児の摂取基準や目安値となるはずの数字です。
しかしながら、現在、日本で0-5ヶ月乳児のヨウ素の目安値は100µg/日なのです。
これはなぜでしょうか。
実はこれは諸外国との差異を埋めるためなのです。
アメリカ・カナダの食事摂取基準では、
0~6 か月児の目安量は110 µg/日となっており、
先ほどの日本の母乳から算出した数字147µg/日は、これを大きく上回ることになってしまいます。
このことから、以前よりアメリカ・カナダの食事摂取基準に、
(日本人が小さめのため)日本の乳児の体格を考慮して算出数字である、100µg/日となったのす。
では、母乳を減らさなければいけないのか?などという結論に至ってはいけません。
管理栄養士
食事摂取基準は、そのまま数字だけを追いかけるのではなく、児の健康や環境をみながら利用する必要があります。母乳をそのまま継続することが望ましいので、ヨウ素だけの数字をみる必要はありません。
他の栄養素についても、同じようなことが言えます。特徴的な例として「面白いな」「難しいな」と思っていただけましたら幸いです。
補足)ミルクの場合の留意からカルニチン削除
0-5ヶ月で育児用ミルクのみで育てている場合は、
2020年版では、「食事摂取基準の目安量に満たないと推定される栄養素(カルニチン、ヨウ素、マンガン)が存在する。」
と記載がありましたが、2025年版では、カルニチンが削除されています。
つまり、離乳食開始前に、育児用ミルクのみで育っている場合、ヨウ素とマンガンのみ、目安量には満たないとされました。
食事摂取基準の目安量に満たないとなると不安になる方もいらっしゃるかもしれませんが、これらは「欠乏症の報告は見当たらない」とされていますので、不安に思う必要は全くありません。
6-11ヶ月のおもな変更点(食事摂取基準2020年と2025年の比較)
2020年版 | 2025年版 | ||
ビタミンB12(μg/日) | 目安量 | 0.5 | 0.9 |
葉酸(μg/日) | 目安量 | 60 | 70 |
パントテン酸(mg/日) | 目安量 | 5 | 3 |
ビオチン(μg/日) | 目安量 | 5 | 10 |
鉄(㎎/日) | 推奨量 | 男児 5.0 女児 4.5 | 4.5 |
亜鉛(mg/日) | 目安量 | 3 | 2 |
ヨウ素(μg/日) | 耐容上限量 | 250 | 350 |
鉄の補給方法
2020年では、
「離乳期の鉄についてこの時期については、特に貧血の有無と程度を監視し、必要に応じて乳児用調製粉乳などを用いて鉄の補給を考慮すべきだと考えられる。」
という文言であり、いわゆる育児用ミルクを適宜用いることが推奨されていました。
しかしながら、2025年版では、ミルクに関する文言がなく、食事についてのみの表記となりました。
日本人の食事摂取基準 2025年版
「授乳・離乳の支援ガイド」では、母乳育児を行っている場合、生後5~6 か月を目安として離乳を開始するとともに、鉄の供給源となる食品を積極的に摂取するなど、離乳の進行を踏まえてそれらの食品を意識的に取り入れることを推奨している」
としてします。
1‐2才のおもな変更点(食事摂取基準2020年と2025年の比較)
2020年版 | 2025年版 | ||
ビタミンD(μg/日) | 目安量 | 3.0 | 3.5 |
耐容上限量 | 20 | 25 | |
ビタミンB1(mg/日) | 推定平均必要量 | 0.4 | 0.3 |
推奨量 | 0.5 | 0.4 | |
ビタミンB12(μg/日) | (基準値変更) | 推奨量として0.9 | 目安量として1.5 |
食塩相当量(g/日) | 目標量 | 男児 3.0未満 女児 3.0未満 | 男児 3.0未満 女児 2.5未満 |
カリウム | 目安量 | 900 | ー(値なし) |
鉄(mg/日) | 推奨量 | 4.5 | 4.0 |
耐容上限量 | 男児 25 女児 20 | ー(値なし) | |
亜鉛(mg/日) | 推定平均必要量 | 男児 3 女児 2 | 男児 3.5 女児 3.0 |
目安量 | 男児 3 女児 3 | 男児 2.5 女児 2 | |
ヨウ素(μg/日) | 耐容上限量 | 300 | 600 |
モリブデン(μg/日) | 目安量 | 2 | 2.5 |
食塩相当量の考え方
女児だけが食塩相当量が少ないのが目立ちます。
なぜなのでしょうか。
この塩分の考え方は、2012年の世界保健機関(WHO)の基準から算定されています。
これは成人の値のため、ここから体格を算出して、
なおかつ、国民健康・栄養調査で実際に国民が食べている量もかんがみて、算出します。
つまり、あまり実際と違う値は、目安にもならないためです。
今回、女児が大きく異なって見えるのは、
このようにして算出するときの、参照体格の差異 でうまれたもので、
さらにその数字をまるめているため、差異がとても大きくなってしまいました。
女児だから少ないというわけではありません。
管理栄養士
保育園の給食ではどうしたらいいのか?とか、うちは女の子だから男の子よりも塩分を少なくしなければいけないのかというとそういうことではありません。参照体重から算出し、数字を丸めているんですね。
3ー5才のおもな変更点(食事摂取基準2020年と2025年の比較)
2020年版 | 2025年版 | ||
n-3系脂肪酸(μg/日) | 目安量 | 男児 1.1 女児 1.0 | 男児 1.2 女児 1.0 |
ビタミンA(μgRAE/日)* | 耐容上限量 | 男児 700 女児 850 | 男児 700 女児 700 |
ビタミンB1(mg/日) | 推定平均必要量 | 0.6 | 0.4 |
推奨量 | 0.7 | 0.5 | |
ビタミンC(㎎/日) | 推定平均必要量 | 40 | 35 |
推奨量 | 50 | 40 | |
ビタミンB12(μg/日) | (基準値変更) | 推奨量として1.1 | 目安量として1.5 |
カリウム (mg/日) | 目安量 | 1000 | 男児 1100 女児 1000 |
耐容上限量 | 1400 | 男児 1600 女児 1400 | |
鉄(mg/日) | 推定平均必要量 | 4.0 | 3.5 |
推奨量 | 5.5 | 5.0 | |
耐容上限量 | 25 | ⁻ | |
亜鉛(mg/日) | 推定平均必要量 | 男児 3 女児 3 | 男児 3.0 女児 2.5 |
目安量 | 男児 4 女児 3 | 男児 4.0 女児 3.5 | |
ヨウ素(μg/日) | 耐容上限量 | 400 | 900 |
マンガン(μg/日) | 目安量 | 1.5 | 2.0 |
*ビタミンAの推定平均必要量、推奨量はプロビタミンAカロテノイドを含む。耐容上限量は、プロビタミンAカロテノイドを含まない。
鉄
1-2才と同様、3-5才でも、鉄の推奨量が下がっています。
これは、厳密に計算すると、吸収率の算定が15%から16%に変更したことで再計算をし、なおかつ小数点以下1位を0.5単位にするための若干のズレが生じた為であり、鉄の必要がなくなったわけではありません。
厳密にいえば、鉄の推定平均必要量は2020年との差は0.2㎎程度のものとなります。
数字を丸めるために、差が大きく見えますね。
鉄は摂取量が足りなくなると吸収率があがり、
また基本的に吸収率は野菜などを軸として考えられていることなども考えなくてはなりません。
タンパク質類からだけで計算する必要もなく、追い求める必要はありません。
鉄欠乏のリスクは早産等他のリスクも多分に考えられます。離乳食時期の鉄摂取が不安になったら、現状、子どもが元気かどうかで判断することが求められます。
乳幼児期における食事摂取基準の使い方の注意点
日本人の食事摂取基準のうち、小児(幼児)に関する分野は、「食事摂取基準の策定に有用な研究で小児を対象としたものは少ない。」とされており、成人から計算で求めているものがほとんどです。
すなわち、これらが幼児にとって有用な数字であるかどうかはわかりません。
特に、耐容上限量に関しては、情報が乏しく、算定できないものが多かったとされ、「多量に摂取しても健康障害が生じないことを保証するものではない。」ともされています。
管理栄養士
今回は、速報として2020年版と2025年版の数値の比較を単純に掲載しましたが、大切なのは、この数値がどのように算定されているのか考えることです。
参考資料
厚生労働省,日本人の食事摂取基準2025年版 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html
著者執筆の記事一覧
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一般社団法人 母子栄養協会 代表理事
女子栄養大学 生涯学習講師
NHK「すくすく子育て」他 出演
女子栄養大学 卒(小児栄養学研究室)。企業にて離乳食の開発を行ったのち独立、管理栄養士として多くの離乳食相談を聞き、母親に寄り添った講演会を開いている
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