令和5年「国民健康・栄養調査」の結果と考察

厚生労働省より、令和5年の「国民健康・栄養調査」結果概要が公表されました。
この調査が本来どのようなもので、今年はどのような結果だったのか、時系列でどのような変化があり、今後国民はどのようなことに気を付けていけばいいのか、食事や運動を支援していけばいいのかを一緒に考えていきましょう。

情報を発信する上で、この「国民健康・栄養調査」はとても大切です。
国民で足並みをそろえたり、底上げをしていくことで、国民全員の健康を考えていきましょう!
情報を発信する上で、この「国民健康・栄養調査」はとても大切です。
国民で足並みをそろえたり、底上げをしていくことで、国民全員の健康を考えていきましょう!
管理栄養士

管理栄養士

国民健康・栄養調査とは

国民健康・栄養調査とは、 健康増進法第10条で下記のように定められています。

第十条 厚生労働大臣は、国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基礎資料として、国民の身体の状況、栄養摂取量及び生活習慣の状況を明らかにするため、国民健康・栄養調査を行うものとする。

健康増進法( 平成14年8月2日法律第103号) – 厚生労働省

つまり、国民健康・栄養調査とは、国民の身体の状況、栄養摂取状況及び生活習慣の状況を把握し、国民の健康の増進をはかるための基礎資料となります。

国民健康・栄養調査は、基本的に毎年実施しています。しかし令和2、3年度はコロナ渦により実施できませんでした。

令和5年国民健康・栄養調査結果の概要

令和5年の国民健康・栄養調査結果(2023年度調査 2024年発表)からは、私たちの健康状態や食生活に関する重要な傾向が浮かび上がっています。

以下に、特に注目すべき5つのポイントをまとめました。

結果1.男性は肥満者が増加傾向

調査によると、肥満者(BMI≧25)の割合は男性31.5%、女性21.1%でした。特に男性においては、過去10年間でみると有意に増加していますが、令和元年から令和5年だけを考えると有意な増加はみられませんでした。

国民健康栄養調査 2024年 肥満 割合 厚生労働省発表 肥満男性の割合

20歳以上男性は31.5%が肥満ということになり、これは大きな問題です。

BMI(body mass index)

BMIは、
体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
という式で計算します。

BMI25以上は果たして肥満と言えるのか

このタイトルの答えは、「はい。BMI25以上は肥満に該当します」となります。

例えば、身長が170㎝(1.7m)の場合は、
体重が72.5㎏を超えると、BMIが25以上になります。

国民健康・栄養調査によると、20歳以上の男性の約30%は肥満です。
ここまで肥満の人数が多いと、
果たして、BMI25以上という区分は正しいのか
と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんね。

ここで日本肥満学会のガイドライン3)による肥満区分とWHO基準をみてみましょう。

肥満区分 肥満度分類 肥満 BMI 男性女性 WHO基準

WHOの基準であっても、日本肥満学会3)においても、基準はほぼ同じであり、18.5以上25未満が普通(Normal)であり、BMI25以上30未満は日本においては「肥満1度」WHOにおいては「軽度肥満(Pre-Obese)」に該当します3)

結果2.若い女性のヤセは依然として多い


一方で、ヤセの方(BMI<18.5 kg/m²)の割合は男性4.4%、女性12.0%で、女性では大きな変動は見られませんでした1)が問題は、若い女性のヤセの割合です。
特に、20~30歳代の女性においては、ヤセの方の割合が20.2%に達しています。

若年女性のヤセ 若い女性 年齢 推移 国民栄養調査

この20~30歳代は、妊娠する可能性がある女性ということを考えると、これは問題です。

女性のヤセが増えているといわれていますが、近年変動がないならそれほど問題でもないのですね。
女性のヤセが増えているといわれていますが、近年変動がないならそれほど問題でもないのですね。
いいえ。大きな問題なのです。
20‐30歳代の女性のヤセの割合は20.2%です。つまり5人に1人はヤセに該当しています。これはとても大きな問題とされています。
妊娠・出産を望んでいる人はなるべくBMIを「普通」にするようにしましょう。
いいえ。大きな問題なのです。
20‐30歳代の女性のヤセの割合は20.2%です。つまり5人に1人はヤセに該当しています。これはとても大きな問題とされています。
妊娠・出産を望んでいる人はなるべくBMIを「普通」にするようにしましょう。
管理栄養士

管理栄養士

WHOでも日本肥満学会においても、「やせ」(underweight)は、BMI18.5未満とされています。
例えば、身長160cmだと、47.5kg未満だと「やせ」に該当します。

「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」4)には、「若年女性のやせは、早産や低出生体重などのリスクを高めることが報告されています。」とされています。

低出生体重でもいいと思われるかもしれませんが、成人後に肥満、循環器疾患、2型糖尿病などの生活習慣病の発症リスクが高まる可能性があることが、多くの先行研究で報告されていますので、将来の赤ちゃんのためにもBMIを「普通」にしておくことが、望ましいと言えます4)

また、BMIが低いということは、ダイエットなどが原因となっていたりする場合は、体脂肪率も少ないことが考えられます。
体脂肪率の減少は、間脳下垂体系の働きを抑制し、月経不順、無月経などの卵巣機能不全を起こすとされていますので、不妊への影響も考えられます4)

妊活(体外受精)への影響

いわゆる、体外受精(凍結融解胚移植)でも、女性のBMIがヤセの場合は、BMI普通の方と比べ

・着床率の低下
・妊娠継続率の低下
などがみられることが中国で発表されています5)

不妊治療をするからヤセ型でも大丈夫!と言い切るのではなく、
少しでも体重を健康的にしBMIを普通に近づけていきましょう。

日本においては、「痩せているね!」「痩せたね!」などが、まるで健康であるかの指標のように言われる傾向にありますし、メディアにでる女性がとても痩せすぎている傾向があります。
日本全体の健康を考え、ヤセの基準を見直しましょう。
日本においては、「痩せているね!」「痩せたね!」などが、まるで健康であるかの指標のように言われる傾向にありますし、メディアにでる女性がとても痩せすぎている傾向があります。
日本全体の健康を考え、ヤセの基準を見直しましょう。
管理栄養士

管理栄養士

BMI18.5以上25未満の人の増加を目指しましょう

健康日本21(第3次)では、
1つの指標としてBMI普通 でいる人が66%になるようにとしてします。

これは、肥満、若年女性のやせ、低栄養傾向の高齢者の減少などトータル的にみて、
とにかくBMI普通を目指すという目標です。

この計算背景として、
20~30歳代女性のやせの者の割合を15%未満にすることを目標としていますので、
現状20.2%ではありますが、令和12年までに15%未満を目指していきましょう。

結果3.野菜摂取量が少ない

野菜摂取量の平均値は256.0 gと、減少傾向がみられました。男女別にみると、男性262.2 g、女性250.6 gでした1)。この10年間でみると、男性では有意に減少しています1)。女性では平成27年以降有意に減少していました1)

野菜 日本人 摂取量 250g 350g あと100g 令和5年 2024年 国民健康・栄養調査

健康日本21では、ずっと野菜350gを目標としています。

しかしながら、全く達成できていません。あと少し…という声掛けをしてきましたが、なんとあと100gも足りていない状況です。なんとかしてあと100gしっかり食べていくように声掛けしていきましょう。

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結果4.食塩摂取量が未だに多い

今回の国民健康・栄養調査では、平均的な食塩摂取量は9.8gで、男性は10.7g、女性は9.1gとなりました。
この10年間で有意な増減は見られませんが、
食塩の過剰摂取は高血圧や心疾患のリスクを高めるため、注意が必要です。
健康日本21の目標は、食塩摂取量を7gに減少させることです。

減らそうとさまざまな各社さまざまな努力をしていますが、なかなか減っていません。

味付けだけをおうのではなく、パンや練り物、うどんなどに含まれる「隠れ塩分」の存在を知ることも1つ勉強になります。
また汁物をごくごくと飲むのではなく、野菜を多く食べるための手段として考えていくこともいいでしょう。
味付けだけをおうのではなく、パンや練り物、うどんなどに含まれる「隠れ塩分」の存在を知ることも1つ勉強になります。
また汁物をごくごくと飲むのではなく、野菜を多く食べるための手段として考えていくこともいいでしょう。
管理栄養士

管理栄養士

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結果5.運動が少ない

令和5年度の国民健康・栄養調査では、20歳以上の歩数の平均値は
男性で6,628歩、女性で5,659歩
であり、直近10年間で男女とも有意に減少しました1)

まとめ:健康状態や食生活の改善が必要

国民健康・栄養調査では、
塩分の多さ、野菜摂取の少なさ、運動習慣の少なさ
と、
とても心配な3つがそろってしまい、栄養士としては将来がとても心配です。

また、昨今少子化も騒がれていますが、
若年女性のヤセにはあまり注目されていないようにも感じます。

「ヤセている」ということが誉め言葉にはならないという自覚を全員が持つことで、日本全体の健康に貢献できるのでは?と筆者は考えます。

これから、これらのデータを踏まえ各所でさまざまな施策がなされていきます。

健康日本21(第三次)で定めた目標にむかって、それぞれができることを考えていきたいですね。

参考資料

1)厚生労働省,令和5年「国民健康・栄養調査」の結果(2024年12月21日閲覧)

2)健康増進法( 平成14年8月2日法律第103号) – 厚生労働省

3)日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン2022」 

4)厚生労働省「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」~妊娠前から、健康なからだづくりを~ 解説要領 令和3年3月(2024年12月23日閲覧)

5)Tang, S., Huang, J., Lin, J. et al. Adverse effects of pre-pregnancy maternal underweight on pregnancy and perinatal outcomes in a freeze-all policy. BMC Pregnancy Childbirth 21, 32 (2021)

6)健康日本21(第三次)

著者執筆の記事一覧

川口由美子
川口由美子
一般社団法人 母子栄養協会 代表理事
女子栄養大学 生涯学習講師
NHK「すくすく子育て」他 出演
女子栄養大学 卒(小児栄養学研究室)。企業にて離乳食の開発を行ったのち独立、管理栄養士として多くの離乳食相談を聞き、母親に寄り添った講演会を開いている
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