管理栄養士国家試験 合格率低下と平均年収からの考察

2025年3月28日、管理栄養士国家試験の合格発表が行われ、2年連続合格率が50%を下回りました。
管理栄養士は、専門的な知識・技術が必要とされる国家資格である医療職でありながら、その合格率は低く平均年収は他の医療職に比べても低めという現実があります。

この記事では、他の医療・福祉系資格との比較を通して、このギャップの実態に迫ります。

管理栄養士になるには

管理栄養士養成施設のある大学などで4年間で学んだあとに、国家試験を受験するか、
もしくは栄養士養成施設で学んだあとに栄養士として就業したのちに国家試験を受験すること
ができます(下図参照)2)

管理栄養士国家試験 栄養士 実務年数 管理栄養士になるには 4年 合計5年

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管理栄養士の合格率

第39回(2025年3月実施)管理栄養士国家試験の合格率は48.1%で2年連続で50%を下回りました1)

合格率の年次推移

試験回数受験者数合格者数合格率
第36回(2022年)16,426人10,692人65.1%
第37回(2023年)16,351人9,254人56.6%
第38回(2024年)16,329人8,056人49.3%
第39回(2025年)16,169人7,778人48.1%

合格者の内訳(2024年度)

区分受験者数合格者数合格率
合計16,169人7,778人48.1%
 新卒者8,629人6,908人80.1%
 既卒者7,540人870人11.5%
 ・管理栄養士養成課程(既卒)2,101人234人11.1%
 ・栄養士養成課程(既卒)5,439人636人11.7%

既卒者の内訳として、管理栄養士養成課程卒業後の既卒者と、栄養士養成課程卒業後の既卒者(実務経験者)に分けられます。 ​

管理栄養士養成課程を卒業してすぐの新卒者だと、80%が合格していますが、栄養士過程卒業者などの既卒だと合格率は11%前後とたいへん低くなっています。

実際、栄養士として実務をこなしながら勉強するのは、時間もとれず、とても大変なことです。
それでも頑張って勉強される皆様は、本当に素晴らしいと思います!
実際、栄養士として実務をこなしながら勉強するのは、時間もとれず、とても大変なことです。
それでも頑張って勉強される皆様は、本当に素晴らしいと思います!
管理栄養士

管理栄養士

他資格の国家試験合格率との比較

さて、ここまで取得が大変な管理栄養士ですが、年収は低いといわれています。

以下の表は、医療・福祉系国家資格について、合格率・平均年収・最短取得年数を比較したものです。

合格率が低い順番から並べてみました。

資格名2025年合格率平均年収最短取得年数
管理栄養士48.1%320~390万円3)4)4年
薬剤師68.9%578万円3)6年
歯科医師70.3%924万円3)6年
言語聴覚士72.9%432.5万円3)5)4年
介護福祉士78.3%371万円3)3年
作業療法士85.8%432.5万円3)3年
臨床検査技師86.4%508.5万円3)6)3年
理学療法士89.6%432.5万円3)3年
看護師90.1%508万円3)3年
医師92.3%1,436万円3)6年
歯科衛生士91.0%404万円33年
助産師98.9%567万円34年(看護師+1年)
保育士(養成課程)100%*397万円32年

※各合格率は、厚生労働省2025年発表のもの。
※保育士は、養成校をでると取得できることを採用。
※管理栄養士の平均年収はデータがないため、厚生労働省Jobtag栄養士データおよび、求人広告サイト調べによる

管理栄養士は最低でも4年かかり、そのあと国家試験で約半分のみしか合格しないにもかかわらず、平均年収が320~390万円4)というのが現状です。

管理栄養士の年収は、賃金構造基本統計の中では栄養士と一緒である為、Jobtagでの栄養士としての推測や求人サイトによるものです。国家試験にもかかわらず、賃金基本構造基本統計で情報があがらないので、試算しにくいのが現状です。

管理栄養士の給与が低い理由

管理栄養士の給与が低くなりやすい背景には、以下のような構造的要因があるかもしれません。

病院と介護施設、保育園などで年収が多少異なるようです(人材派遣会社「マイナビコメディカル」調べ)が、下記のようなことが考えられるのではないでしょうか。

  • 直接的な診療報酬が得られにくい
    → 病院での管理栄養士の仕事の中には、診療報酬の対象になるものもあるものの、「医師の指示が前提」「施設単位の算定」であり、個人に直接報酬が出る仕組みではありません。
    また、薬局やドラッグストアに勤務する管理栄養士は、どれだけ栄養相談を行っても、現行制度では診療報酬は発生しません。そのため、雇用主が直接その業務に価値を見出さないと、給与に反映されにくいのが現状です。
  • キャリア形成制度が曖昧である
    → 管理職や専門職としての評価制度が整っていません。
     保育士等は、「保育士等キャリアアップ研修」などがあります。保育園に勤務する栄養士・管理栄養士は、これによって、追加で報酬が得られますが、保育士のように主任保育士などまでのぼりつめることができません。また、病院に勤めてもキャリア形成が曖昧であり、各施設によって異なるのが特徴です。
  • 認定制度取得が年収改善に繋がりにくい
    →日本栄養士会では、
    1.認定管理栄養士、認定栄養士 認定制度
    2.特定分野別認定制度
    3.専門分野別認定制度
    などがあり、しっかりとした学習を生涯にわたって学習できるようになっています7)
    スキルアップにはなりますが、これらが報酬改善につながりにくいところが問題の1つかもしれません。
    取得にはかなりの金額がかかるため、報酬改善につながるとさらに良いでしょう。
管理栄養士 栄養相談 年収 合格率 女性


【関連記事】管理栄養士の国家試験要件緩和とは?

難しいからこそ目指そう!「管理栄養士」の未来

​栄養士は、健康な人に栄養を伝えることができます。

これに加えて管理栄養士は、健康な人だけでなく、病気を持つ人々に対しても、個々の健康状態や病状に応じた高度な栄養指導や給食管理をおこなうことができます。
医療機関での患者への栄養指導や、特別な配慮を必要とする給食管理などができるのです。

また、管理栄養士は、健康増進法に基づき、配置が義務付けされている施設があります。
「特定給食施設であって特別な栄養管理が必要な施設として、都道府県知事が指定する施設」の設置者は、当該特定給食施設に管理栄養士を配置しなければなりません8)

NHK朝の連続テレビ小説「おむすび」でも、栄養士から管理栄養士になる主人公が描かれ、病棟でのさまざまな活躍がみられてて、素敵でしたよね。

やるべき仕事が明確で、配置が義務付けられている場所があるのですから、管理栄養士になると、仕事の選択の幅がぐっと広がります!
やるべき仕事が明確で、配置が義務付けられている場所があるのですから、管理栄養士になると、仕事の選択の幅がぐっと広がります!
管理栄養士

管理栄養士

まとめ:もっと評価されるべき専門職「管理栄養士」

管理栄養士は、病気の予防・再発や悪化の防止・生活の質の向上などに大きな役割を果たす専門職です。

資格取得までに長い時間と努力を要するにもかかわらず、収入面での評価がまだ追いついていない現状があるように思えます。

万一、管理栄養士がいなくなった場合、病気の方への献立作成などができなくなってしまったり、病気の予防の食事指導ができなくなりますし、そもそも必置義務の特定給食施設(病院・老人保健施設など)が運営できなくなるはずです。

仮定の話ではありますが、管理栄養士を失うことは、社会的に大きな損失になります。

栄養士・管理栄養士全体で、自分たちの専門性をどう社会に伝えていくかを考えていく必要があるように思えます。

まずは、職業価値を高めていく第一歩だと信じています。

学会など多様な場所で、管理栄養士として発表をしていく、食事改善報告をできるだけ記録に残すなど、私たちにできることを考えていきたいですね。 

参考資料

1)厚生労働省,第39回管理栄養士国家試験結果,(2025年3月28日閲覧)
2)日本栄養士会「管理栄養士・栄養士になるには」(2025年3月28日閲覧)
3)厚生労働省,令和5年 賃金構造基本統計調査(2025年3月28日閲覧)
4) 求人ボックス「栄養士」(2025年3月29日閲覧)
5)厚生労働省jobtag 「言語聴覚士」(2025年3月28日閲覧)
6)厚生労働省jobtag 「臨床検査技師」(2025年3月28日閲覧)
7)日本栄養士会,認定栄養士制度ほか
8)厚生労働省「特定給食施設における栄養管理に関する指導・支援等について」(2025年3月28日閲覧)

合格率は、厚生労働省の国家試験合格発表に基づきました

著者のプロフィール

川口由美子
川口由美子
一般社団法人 母子栄養協会 代表理事
女子栄養大学 生涯学習講師
NHK「すくすく子育て」他 出演
女子栄養大学 卒(小児栄養学研究室)。企業にて離乳食の開発を行ったのち独立、管理栄養士として多くの離乳食相談を聞き、母親に寄り添った講演会を開いている
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