「コーヒー等のカフェインは鉄吸収を阻害」は誤解!原因物質タンニンと飲み物
「カフェインは鉄分の吸収を妨げるのはナゼだろう?」と考えたことはありますか?
実は、この認識にはちょっと誤解が含まれていそうです。管理栄養士が解説します。
このコラムでは「鉄」を「鉄分」と称したりして書きます。一般的に鉄分といわれますが、専門的には鉄と書きます
「カフェイン=鉄吸収阻害」とは言い切れない
多くの方が「コーヒーや紅茶を飲むと貧血になる」「カフェインが鉄分の吸収を妨げる」と理解していますが、これは厳密には正確ではありません。
カフェインは直接的に鉄吸収阻害はしない
カフェイン自体は直接的な鉄吸収阻害物質ではありません。
実際に鉄の吸収を阻害するのは、
カフェイン含有飲料に含まれるタンニンとクロロゲン酸です1)。
カフェインの間接的な鉄吸収阻害の影響
では、カフェインは全く無関係かというと、そうではありません。
カフェインはビタミンCの体外排出を促進する作用があります1)。
ビタミンCは非ヘム鉄の吸収を促進する重要な栄養素です。
このため、カフェインによってビタミンCが減少し、結果的に非ヘム鉄の吸収を阻害することにはなります。
鉄吸収の阻害物質:タンニンとクロロゲン酸
ポリフェノール類の鉄吸収阻害作用
鉄の吸収を実際に阻害するのは、ポリフェノールの一種(タンニン様の作用を持つ)です。
ポリフェノールのうち、おもに下記の2種が鉄分の吸収を妨げる方向に働きます。
- タンニン…紅茶、緑茶に多く含まれる渋味成分、ポリフェノールの一種
- クロロゲン酸…コーヒーに含まれるポリフェノールの一種(タンニン様の作用を持つ)
でも、鉄の吸収に関しては 「阻害する」という側面があるので、摂取のタイミングが重要ということなのです。
ポリフェノールがいいとか悪いとかはひとことでは言えないかもしれませんね。
でも、鉄の吸収に関しては 「阻害する」という側面があるので、摂取のタイミングが重要ということなのです。
ポリフェノールがいいとか悪いとかはひとことでは言えないかもしれませんね。
吸収阻害のメカニズム
タンニンなどのポリフェノール類が鉄の吸収を阻害する仕組みについてみてみましょう。
タンニンが鉄イオン(Fe²⁺、Fe³⁺)と結合し、水に溶けいにくい「タンニン鉄複合体」を生成してしまうのです2)。
その複合体を作ってしまうことで、腸管上皮細胞では吸収されにくくなり、鉄は吸収されず便として排出される2)という仕組みです。
ヘム鉄と非ヘム鉄:影響の受けやすさが異なる
タンニンの影響は、非ヘム鉄の場合に影響されます。
ヘム鉄・非ヘム鉄の分類は一概には言えませんが、おもに下記のように分類されます3)。
| 鉄の種類 | おもな食品源 | 吸収率 | タンニンの影響 |
|---|---|---|---|
| ヘム鉄 | 肉類、魚類、レバーなど動物性食品 | 高い | 影響を受けにくい |
| 非ヘム鉄 | 野菜、穀物、豆類などおもに植物性食品 | 低い | 大きく影響される |
日本人の食事で注意すべき点
そのため、タンニンによる影響を受けやすいのです。
そのため、タンニンによる影響を受けやすいのです。
非ヘム鉄は無機鉄イオンの状態で存在するため、タンニンと結びつきやすく、
吸収しにくくなってしまいます。
鉄吸収の研究とその見方
実験的条件下での鉄吸収阻害
過去の研究(Hurrell et al., 1999)では、特定の実験条件下で、タンニン等のポリフェノールを含む飲料が鉄の吸収を大幅に阻害することが示されています4)。
例えば、紅茶やハーブティーを食事と同時に摂取した場合、鉄吸収率が大きく低下することが報告されています4)。
実験の具体的条件
このHurrellらの実験条件4)を見てみましょう。
鉄を含んだパンとバターと飲み物だけという条件で他の食べ物がない状態です4)。
- 合計77名(男性23名、女性54名、19~40歳)、8つの異なる実験で実施
- 各被験者は2日間で計4回の食事摂取、その後14日後と31日後に血液検査で吸収率を測定
- パン50g(鉄2.1mg含有 硫酸鉄FeSO₄)+ バター10g + 飲料275ml
- 食事と飲料を同時に摂取
- 前夜から絶食、食後3時間は水以外飲食禁止
これらの条件でおこなうと、
紅茶やハーブティーで鉄の吸収率が大きく低下しました。
(紅茶による阻害は79~94 %、ペパーミントティーは84 %、ココアは71 %、カモミールは47 %)

研究結果の見方
これらの研究は重要な科学的知見ですが、パンとバターと飲み物だけという過酷条件のものです。
通常であれば、日々複数の食材を組み合わせて食べるますよね。
また鉄の種類もさまざまであるとも言えますがこれは実験なので、1種類のみなのです。
そして、たった4回の食事であるところにも注目したいですね。
ですので、この実験だけですと、コーヒーに含まれるカフェインが鉄を阻害するというのではなく、紅茶に含まれるタンニンが鉄の吸収を阻害するといったほうがよさそうです。
ですので、この実験だけですと、コーヒーに含まれるカフェインが鉄を阻害するというのではなく、紅茶に含まれるタンニンが鉄の吸収を阻害するといったほうがよさそうです。
日常生活での実際の影響は?
コーヒーや紅茶、緑茶を飲むことで本当に鉄欠乏になるのでしょうか?それが気になります。
コーヒーや紅茶、緑茶を飲むことで本当に鉄欠乏になるのでしょうか?それが気になります。
【最新研究】コーヒー・緑茶は本当に「避けるべき」なのか?
カフェインではなく、タンニンやクロロゲン酸が鉄の吸収を阻害することがわかりました。
しかし、「だからコーヒーやお茶を避けるべき」という単純な結論には、重要な視点が欠けています。
日本人1万人以上を対象とした大規模研究の結果
2023年に発表された日本人1万435人を対象とした大規模研究(J-MICC Study佐賀)5)では、緑茶やコーヒーの摂取と鉄欠乏の関係について、従来の考え方を見直す重要な知見が示されました。
コーヒー・緑茶による鉄欠乏リスクは限定的と判明
この研究では下記のような結果となりました。
- 男性は、緑茶・コーヒーと鉄欠乏の関連は非有意
- 閉経前女性は、緑茶・コーヒーと鉄欠乏の関連は非有意
- 閉経後女性は、コーヒー1日3杯以上で鉄欠乏リスク上昇(OR 2.20)
つまり、閉経後女性でコーヒーを1日3杯以上飲む場合のみ注意が必要であり、
それ以外の集団では鉄欠乏との明確な関連は認められなかったのです。
過剰な鉄貯蔵もリスクとなるのでリスク回避にも
この研究では、さらに重要な指摘がなされています。
体内における過剰な鉄貯蔵は、慢性疾患や死亡リスクを高める可能性があり、
緑茶やコーヒーの摂取により腸内での鉄吸収を適度に抑制することで、
酸化ストレスを軽減する健康効果が期待できるというのです5)。
血清フェリチン値との関係
また、この研究では下記のような関連もわかりました。
- 男性は、緑茶・コーヒーの摂取量が多いほど、血清フェリチン(鉄貯蔵量の指標)が有意に低い
- 閉経前女性は、緑茶には有意な負の関連、コーヒーは非有意
- 閉経後女性は、緑茶・コーヒーともに摂取量が多いほど血清フェリチンが有意に低い
ただし、フェリチン値が低いことが必ずしも「鉄欠乏」を意味するわけではなく、過剰な鉄貯蔵を防ぐ可能性もあります。
しかし、J-MICC Study佐賀では、コーヒーや緑茶に限っています。
カフェインではなく、タンニンやクロロゲン酸が鉄吸収を直接的に阻害しますので、コーヒーや緑茶以外の阻害要因にははかれません。
人数が多いのでさまざまな食生活が想定されるとはいえ、このJ-MICC Study佐賀研究のみで、すべてをはかることも難しいともいえます
J-MICC Study佐賀からわかること
この研究結果は、鉄欠乏のリスクがない方には、過度な制限は必要ないとしています。
適度な摂取はむしろ健康効果の可能性ともいわれています。
ただし、鉄剤服用中や貧血治療中の方は注意が必要です。
管理栄養士が教える!コーヒーやお茶と鉄分摂取の実践的アドバイス
では、コーヒーやお茶と鉄の関係はどのように考えたらいいのでしょうか。
簡単に言えば、リスクが高い(注意が必要な方)とそうでない方で異なります。
【注意が必要な方】
- 鉄剤を服用中の方
服用(または食事)の食後は、コーヒー・紅茶・緑茶を避けて30分〜1時間程度空ける。
カフェインではなく、タンニンやクロロゲン酸というポリフェノール類であることを知り、ハーブティーなども注意が必要であることを知る - 閉経後女性でコーヒーを1日3杯以上飲む方は、それ以上は飲まないようにする
- 妊娠中・授乳中の方は、鉄吸収のみならず、カフェイン摂取量全体にも配慮をしましょう。
なるべくお茶類を控えましょう。ノンカフェインのコーヒーやハーブティーでも鉄欠乏リスクがあることを知りましょう。
【関連記事】妊娠中や赤ちゃん、カフェインはどのくらいとってもいい?
【通常の健康な方】
鉄欠乏のリスクがない健康な方は、食後のコーヒー・お茶1~2杯程度であれば、過度に心配する必要はないでしょう。
【貧血治療中・妊婦の方など貧血が気になる方が飲みたい飲み物】
食事の際の飲み物は、タンニンの少ない飲料(麦茶、ほうじ茶、ルイボスティー、水)を選べるといいですね。
ただし、食間や食事から時間が経った後のコーヒー・お茶は問題ありませんので、ストレス感じるほどのに制限する必要はないです。多くなりすぎないようにしましょう。
よくある質問
-
カフェインが鉄の吸収を妨げるって本当?
いいえ、半分誤解です。 カフェイン自体ではなく、コーヒーや紅茶に含まれるタンニンやクロロゲン酸が原因です。カフェインは間接的にビタミンCを減らすことで、結果的に鉄吸収に影響します。
-
食後にコーヒーを飲んではいけない?
状況によります。ちなみにコーヒーだけではなく紅茶や緑茶、一部ハーブティなどもです
鉄剤服用中は、前後30分~1時間は避けましょう
貧血治療中の方は妊婦さんは、食後30分~1時間はお茶類やコーヒーなどは避けられるといいでしょう。
健康な方なら問題ありませんが、閉経後の女性は1日3杯未満だといいでしょう。 -
緑茶と紅茶、どちらが鉄吸収に悪いですか?
紅茶の方が影響が大きいです。 紅茶のタンニン含有量は緑茶の約2~3倍。
ただし、どちらも食事と同時に大量摂取しなければ、健康な方は過度に心配する必要はありません。
まとめ 鉄欠乏リスクを考え、ほどよいバランスを
- 鉄の吸収阻害は、カフェインは直接的な原因ではなく、タンニン・クロロゲン酸が真の原因です
- 特に非ヘム鉄(植物性食品)が影響を受けやすい
- 海外の研究では、紅茶やハーブティ類で多くの鉄吸収阻害があることが示された
- 日本人1万人超の研究では、鉄欠乏リスクは限定的であることがわかった
- 鉄剤服用中・貧血治療中・妊婦の方は特に注意が必要で麦茶や水などがおすすめ
- 健康な一般の方は過度に心配する必要はない
- コーヒーや緑茶などには、リラックス効果や過剰な鉄貯蔵を抑制し、健康に寄与する可能性もある
これらの利点も考慮しながら、上手に付き合っていくことが大切です。
研究は、諸条件によって結果もさまざまあるものです。
大切なのは、これらの研究を受け止めつつ、しっかり食事はバランスよく、主食・主菜・副菜・果物・乳製品などをとっていくことです。果物にはビタミンCなど、非ヘム鉄を吸収しやすくする側面もあります。
参考文献
- 厚生労働省[働く女性の心と体の応援サイト].カフェイン・アルコールの影響について(2025年12月14日 閲覧)
- 五十嵐香織ら. 鉄強化剤の吸収における検討. 微量栄養素研究. ;18:25-28(2025年12月14日 閲覧)
- 厚生労働省.日本人の食事摂取基準2025年版(2025年12月14日 閲覧)
- Hurrell RF, et al. Inhibition of non-haem iron absorption in man by polyphenolic-containing beverages. Inhibition of non-haem iron absorption in man by polyphenolic-containing beverages. ;81(4):pp. 289-295(2025年12月14日 閲覧)
- Hinako Nanri, et al. Association between green tea and coffee consumption and body iron storage in Japanese men and women: a cross-sectional study from the J-MICC Study Saga. . Front Nutr. . 2023年8月;10:10:1249702:(2025年12月14日 閲覧)
- 厚生労働省.「食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A」(2025年12月14日 閲覧)
- こども家庭庁.「妊娠中と産後の食事について」 (2025年12月14日 閲覧)
著者のプロフィール

-
一般社団法人 母子栄養協会 代表理事
女子栄養大学 生涯学習講師
NHK「すくすく子育て」他 出演
女子栄養大学 卒(小児栄養学研究室)。企業にて離乳食の開発を行ったのち独立、管理栄養士として多くの離乳食相談を聞き、母親に寄り添った講演会を開いている
記事
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