第2回「授乳・離乳の支援ガイド」改定研究会の感想と提言

注意)これは管理栄養士、栄養士、離乳食アドバイザーなど小児栄養に関わる方へのコラムであり一般的ではありません。

また筆者の私見が含まれており、厚生労働省での会議議事録ではないことを、ご了承ください。


注意)本記事は2019年3月30日「授乳・離乳の支援ガイド」が改定される前の過程の記事です。


>>2019年改定「授乳離乳の支援ガイド」はこちら

授乳・離乳の支援ガイドに対する提言の経緯

前回、2018年度 新しい授乳離乳の支援ガイド 改定に関する提言を、
2018年10月に記載させていただきましてから、多くの方に閲覧していただき
たくさんご質問をいただきました。

【関連記事】2018年度 新しい授乳離乳の支援ガイド 改定に関する提言


2018年12月27日、
厚生労働省にて行われた第二回「授乳・離乳の支援ガイド」改定に関する研究会で、
議論としてもあがった2点について今回は、筆者より提言をかかせていただきます。

1.5.6カ月~という表記の見直し

乳児のエネルギー不足推移

前回書いたところ、
「なぜエネルギーギャップは6カ月からなのに、ガイドラインの適正が生後5,6か月頃~になっているですか?」という質問があがりました。

まず、前回も参考にした、
エネルギーや鉄分のギャップ(差異)ですが、これはWHOの資料です。

・6カ月からエネルギーギャップがある → つまり母乳だけでは栄養が足りなくなるのは6か月以降
・2001年3月に出されたWHOジュネーブ会議の報告書1)
「完全に母乳だけで育てられるべき期間は生後6か月間」とされていること

などのWHO発表の2点から、「離乳食の開始は6カ月とすべきだ」という意見があると思います。

しかしながら、本研究会では「6カ月ごろからがよい」としながらも記載は
「5,6カ月頃」という落としどころになっているのは、想像するに

・WHO補完食2)に4-6カ月頃から始めると書いてある

ことも要因の1つなのではないかと思われます。

しかしこれは2000年なので、
前述の2003年報告書より前の記述なので少し古いともいえるでしょう。

そこで考えられるのは、

・6カ月からエネルギー不足鉄分不足を補うために、
スプーンに慣れたり母乳以外の味などに慣れることを考えて5・6カ月と幅をもうけた

という説です。

これはあくまでも筆者の仮説です。

保護者に対する負担と混乱回避のために

厚生労働省の「授乳・離乳の支援ガイド」は、
保護者への負担をとてもよく考えようとし、
その基準をなるべく曖昧にして幅を持たせたり、
ニュアンスをやわらかくすることにつとめています。

もし、「6カ月」と明確にかくと、
保護者が不安になるのではないか
と考えてのことではなのではないかと推測されます。

しかしながら、WHOが4-6カ月という表記を6カ月~にしている現在、
日本も6カ月~に統一したほうが、
保護者を混乱させずわかりやすいのではないかと思います。

12月27日の検討会でも最後に
「生後6カ月までは母乳をしっかり飲ませることとされていることを
忘れずに補足いただきたい」
ということが日本赤十字社医療センターの井村先生から提言されています

2.卵は何カ月からにはじめたらいいのか

これも前回は書いてありませんが、実際よくある質問です。
筆者は
・国立成育のPETIT study(Natsume O,et al.Lancet.2017)では、
たしかに生後6ヶ月~食べた方がいいとしているが全卵粉末50㎎/日であるので、
実際問題この状況をつくるのが難しいため、
現状の授乳離乳支援ガイドに明言化されている生後7ヶ月から、固茹で卵の卵黄からはじめましょう

と回答していました。

第2回研究会で話し合われたこと

今回12月27日の第2回研究会で、もっとも議論になったのが、国立成育医療センター 成田先生による
「食物アレルギーの観点から授乳・離乳を支援するポイント」3)です。

成田先生からは、
「平成7年の改定離乳の基本には、離乳初期に卵黄 2/3以下と記載があったが、
平成19年の授乳離乳の支援ガイドには、
5,6カ月に卵の表記がなく、7,8カ月頃からに記載してあることが問題」と提言がありました。

改訂離乳の基本

たしかにそうなのですが、
PETIT Study(国立成育2017年)は、全卵50㎎でのテストなので、
これと卵黄を同じ状況ととらえることに無理があると筆者は思います。

実際にある質問をどう考えるか

実際、よくある質問では「どうやって全卵を少しずつあげたらいいですか?」という質問です。

「卵をよく溶き、薄焼き卵を細く刻んで錦糸卵をつくり、
それを冷凍して少しずつあげるといいでしょう」と回答しています。

もちろん赤ちゃんが食べられるのはごく少量なので、ほとんどは家族の人が食べていいかと思います。

錦糸卵 離乳食 卵 卵白 全卵 始め方 離乳食

焼いてあるので多少弾力がありますので、離乳期にあわせてさらに細かく刻んで茹でてあげたり、
おかゆと混ぜると食べやすくなります。

今回の第二回検討会では
「平成7年度のものを再び採用して離乳初期から卵をはじめてもらいたい」という提言がありましたが、
これが全卵になるのか従来通りの卵黄からになるのかは、今後意見がわかれてくるところでしょう。

筆者の想定では母親が鶏卵を摂取していれば微量でも乳児に移行しているものと考えられ、
それが初期からのごく微量摂取につながりはしないものなのかと推測しているのですが、
そのテストは存在しませんので仮定にすぎません。

今後何カ月から、どのような卵摂取の方法が望ましいとされていくのかは
注目が集まるところではありますが、
あくまでも、加熱全卵50㎎(0.05gだが茹で全卵0.2g相当)のスタディです。

全卵0.2gとは実際問題難しいです。

用量の考え方

卵は用量相関があるアレルギーなので、
0.2gでは予防につながったとしても、
10gでは全く違う結果になることも考えられます。

実際現場が参考にする指針に記載するには、
最低でも全卵5g等でのエビデンスがないと家庭での実践は困難であると筆者は考えるため、
今後の検討会に期待いたします。

【関連記事】卵はいつから食べられる?

双方を考えての筆者からの提言

・WHOにあわせて離乳食の開始を6カ月~とする
・卵アレルギー予防の観点から卵を6カ月~とする
という2点が望ましいように書きましたが、最後に、これらには少しだけ矛盾が生じます。

現在の日本の離乳食の考えでは、おかゆからはじめるとしています。
この考えでいくと、
6カ月から離乳食をあげはじめても6カ月から卵をあげるのは難しいと考えらえます。

このことから、6カ月から卵をあげるべきということになれば、
離乳食の開始は現行通り5,6カ月頃~とするのが望ましいといえるのかもしれません。

一方で、前述のとおり、PETIT2017では乾燥卵粉末0.05g(全卵0.2g)という微量であることと、
血液検査の結果、卵に感作があった児にのみ有意差がでたことから、
アトピー性皮膚炎と診断され、
なおかつ血液検査で卵アレルギーがみとめられた時のみ、
医師がごく微量の卵粉末を処方するというやり方が現実的なのではないかと筆者は思います。

皆さまはどうお考えになりますか?

*本記事は第二回検討会資料や下記文献を用いて記載しているものの、
多くの私見がはいっているため、
正しいというわけではありませんのでお間違えなきようおお願いいたします。

>>2019年改定「授乳離乳の支援ガイド」はこちら

参考文献

1)WHO/UNICEF; Global Strategy for Infant and Young Child Feeding. WHO, 2003
http://www.who.int/nutrition/publications/gs_infant_feeding_text_eng.pdf
2)日本ラクテーションコンサルタント協会 編 補完食Complementary Feeding
Family foods for breastfed children
3)「授乳・離乳の支援ガイド」改定に関する研究会資料

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川口由美子
川口由美子
一般社団法人 母子栄養協会 代表理事
女子栄養大学 生涯学習講師
NHK「すくすく子育て」他 出演
女子栄養大学 卒(小児栄養学研究室)。企業にて離乳食の開発を行ったのち独立、管理栄養士として多くの離乳食相談を聞き、母親に寄り添った講演会を開いている