ヤギミルクを赤ちゃんにあげないで!母乳の代わりになりません

ヤギミルクは、母乳や育児用ミルク変わりとして飲むのは非常に危険です。
SNSでアレルギーが出にくい、母乳に近い等の情報が広まっており、特に「自然派」「オーガニック」といったキーワードとともに注目を集めています。

しかし、医学的見地から見ると、
ヤギミルクの乳児への使用については重大な問題があります。

本記事では、ヤギミルクを完全に否定するものでも、また擁護するものでもありません。使い方によって危険性があるということを説明いたします。

ヤギミルクが母乳の代替になっていた古代

ヤギミルクは、古代では、母乳が出ない場合の代替品として使用されてきたかもしれません。

本当に昔の話では、牛よりもヤギやヒツジのほうが飼いやすく、家畜として飼育されていたかもしれません。しかし、母乳の代わりにしていたわけではなく、あくまでも食材の1つとしてとらえ、さまざまな料理に利用されていたと推測できます。

母乳の代わりとしての乳母(他の人の母乳)の存在

昔、どうしても母乳で育ててることができなかった場合で、子が生死をさまよう際には乳母(代理で母乳をあげる人)が求められました。

それすらもできなかった場合には、ヤギやヒツジのミルクが使われたこともあるのかもしれません。 特に文献は探せませんでしたが、ありえそうです。

しかしながら、これは本当に昔のこと、現在はおこなってはいけません。

ヤギミルクの脂肪球の大きさは、牛乳とほぼ同サイズ。

販売サイトやSNSなどには「ヤギミルクは牛乳よりも脂肪球が1/6小さい」などと書かれています。しかし、実際にはそのような論文や学術的な文献を見つけることができず、むしろヤギミルクの脂肪級は牛乳と同程度の大きさです1)2)

ヤギミルクの脂肪球はサイズ差が激しい

JANDALは、ミルクの脂肪球は下記の中で変動するとしています1)2)。   

ヤギミルクの脂肪球の大きさ0.1~10 μm(平均 3.2 µm)
牛乳の脂肪球の大きさ0.1~15 μm(平均 3.95 µm)

El-Zeini (2006)の論文によると、JANDALの報告を引用し、「牛乳とは逆に、ヤギミルクの脂肪球は<2.0 μmのサイズが最も多い」と述べつつも、8.0 µm以上の大きな脂肪球で比較すると、牛乳は全体の約5.2%であるのに対し、ヤギ乳には9.2%含まれているのとのことでした。

つまり、ヤギ乳脂肪球の大きさは少し脂肪球が小さいものと大きいものが双方含まれていそうです2 )

ヤギ乳と牛乳には脂肪球には差がないとする発表

また、Chiaは ヤギミルクの脂肪球直径は下記の通りとし、牛乳と差がないとしています3 )

ヤギミルクの脂肪球の大きさ3.2‐3.5 μm
牛乳の脂肪球の大きさ4.0‐4.6 μm

このように、牛乳とヤギミルクの脂肪球のサイズに大きな差がないことが示されています。

脂肪球が仮に極端に小さかった場合は、同容積につまっている球の表面積が大きいということから、消化しやすい*とはいえますが、実際はヤギミルクの脂肪球はそこまで牛乳と差がないので、有意差みられません。

ヤギミルクは、発展途上国の栄養失調時の幼児には有効

したがって単純に「ヤギミルクの脂肪球が小さいから消化しやすい」とは言えません。

しかしながら、2006年の田中らの寄稿によると、

アルジエリアでは栄養失調の64人の幼児に牛乳に替えてヤギ乳を飲用させると、小腸での脂肪吸収率が有意に改善されたという報告、またマダガスカルでは栄養失調で入院中の1から5歳の幼児30 人に通常の食事の他に牛乳かヤギ乳のどちらかを2週間飲用させた結果、体重増加はヤギ乳の方が9%優れていた

と、(RAZAFINDRAKOTOらの1993年の研究を引用しています。

これらのことから、著者の私の考えでは下記のような場合にはヤギ乳が有用であることがありそうです

  • 栄養失調状態の幼児が早急に栄養改善が求められる場合
  • 1~5歳の乳児において著しいヤセなどが認められた場合

しかしながら、いずれも1歳以降の幼児を研究としたものであり、またほかのミルク製品(育児用ミルクやフォローアップミルク)や母乳と比較をしていません。

ヤギミルク ヤギ乳 ミルク アレルギー 代替 

牛乳アレルギーのリスクは、ヤギミルクにもある

「牛乳アレルギーの子どもにヤギミルクなら大丈夫」という説が広まっていますが、ヤギミルクでも、牛乳アレルギーはおきますので、医学的根拠はありません。

ヤギミルクは牛乳アレルギーと性質が非常に近く、牛乳アレルギーを持つ子どもの約92%(26人中24人)がヤギ乳にもアレルギー反応を示したという研究報告があります5)

食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2022では「牛乳以外のやぎ乳や羊乳などは、アレルギー表示の範囲外であるが、牛乳と強い交差抗原性があり、使用できない。」としています6)

アレルギーは、タンパク質の量と相関しますので、一般的に、タンパク質の量でアレルギーの強さを大まかにはかることができます。

ヤギ乳のカゼインなどのタンパク量は牛乳とほぼ同等

ヤギ乳は、田中らの資料3)によると、ヤギ乳のタンパク質は牛乳と比べて、若干多く、また、日本食品成分表によると若干少なくみられました。

このタンパク質には種類があり、牛乳のアレルゲンにはカゼイン、β-ラクトグロブリンなどがありますが、ともに、ヤギ乳のほうが若干多いことが、田中らの資料から明らかになっています(表)。

アレルギー反応を引き起こすβ-ラクトグロブリンの割合はむしろヤギ乳の方がわずかに高いのです。

表)ヤギ乳および牛乳タンパク質の比較

成分ヤギ乳(%)牛乳(%)
総タンパク質3.33.1
 総カゼイン2.72.6
 ホエータンパク質0.60.5
   α-ラクトアルブミン0.20.1
   β-ラクトグロブリン0.40.3
  血清アルブミン0.10.1
ミルク 育児用

ヤギミルクと牛乳・母乳の栄養比較

以下の表は、日本食品成分表などのデータに基づく、ヤギミルク・牛乳・母乳・育児用粉乳の主要栄養素の比較です7)

栄養成分(100g当たり)母乳育児用ミルク(13gあたり)牛乳ヤギ乳
基本栄養素(七訂 2015年版)に基づく成分)
 エネルギー65kcal67 kcal67kcal63kcal
 たんぱく質1.1g1.6g3.3g3.1g
 脂質3.5g3.4 g3.8g3.6g
 炭水化物7.2g7.3 g4.8g4.5g
ビタミン
 ビタミンD0.3μg1.2μg0.3μg0μg
ビタミンB12(微量)0.2μg0.3μg0μg
葉酸(微量)10.7μg5μg1μg
ミネラル類
 カルシウム27mg48.1mg110mg120mg
 リン14mg28.6mg93mg90mg
 鉄0.04mg0.8mg0.02mg0.1mg
脂肪酸
 n-3系脂肪酸0.09g0.05g0.02g0.03g

育児用粉乳は科学的に母乳に近づけるよう調整されており、乳児の栄養必要量を満たすよう設計されています。対照的に、ヤギミルクはそのような調整がなされていません。

日本食品成分表によると、ヤギミルクには、育児用粉乳ほど鉄が含まれていない他、ビタミンB12なども含まれていません。
DHAやEPAなどのn-3系脂肪酸も、牛乳やヤギ乳では多くありません。他にもさまざま栄養素で差はあります。

巨赤芽球性貧血のリスク

ビタミンB12や葉酸が少ないのは、
これが巨赤芽球性貧血の主なリスク要因となります。

母乳にも少ないのですが、母乳は母体の食事に左右されるといわれています。

1977年、南アフリカジャーナルによると、ヤギミルクだけで育てられた乳児に巨赤芽球性貧血が発症した症例が報告5)や、1966年にニュージーランドにてヤギ乳と乳児巨赤芽球性貧血:3症例の報告とニュージーランド産ミルクの葉酸活性の調査という研究があるようです(1966年の論文はみていません)。

巨赤芽球性貧血の症状

  • 極度の疲労感
  • 息切れ
  • めまい
  • 集中力低下
  • 発達遅延
  • 神経障害(特にビタミンB12欠乏の場合)

乳糖は牛乳と同様

ヤギミルクの販売会社によると、「乳糖が少なく乳糖不耐症に良い」と書かれていますが、日本食品成分表によると、乳糖の含有量は大きく違いがなく、乳糖不耐症に影響するほどの差ではありません[下表]。

成分100gあたり母乳育児用ミルク(13gあたり)牛乳ヤギ乳
乳糖(6.4)g6.6g4.4g(4.5)g

乳児については乳糖不耐症を考慮する必要はほとんどなく、むしろ乳糖は重要なエネルギー源です。

ヤギミルクの適切な利用方法

ヤギミルクには、育児用ミルクや母乳の代わりとして飲むのは、絶対に避けるべきですが、適切な使い方もあります。

乳児の場合

  • ヤギミルクを乳児の主要な栄養源として使用しない
  • 乳児には母乳または認可された育児用粉乳を使用する
  • 離乳食としてミルク煮などに少量使う

などは問題ありません。

成人の場合

  • 多様な食事の一部として適量を摂取するなら問題ない
  • ヨーグルトやチーズなどの乳製品として楽しむのも良い

ヤギミルクを離乳食で使う時の注意点

ただし、ヤギミルクの注意点として、牛乳アレルギーや乳糖不耐症の方には使えません。

  • 未殺菌のヤギミルク(生乳)は危険なので絶対に避ける
  • 乳アレルギーや乳糖不耐症の方は、アレルギー用食品ではないので、十分に気を付ける(医師の指導のもととする)

【礒牛乳

まとめ:ヤギミルクは母乳の代わりにはなりませんが食材としてOK

ヤギミルクは伝統的に親しまれてきました食材の1つであり、食材として決して劣っているものではありません。
しかし、いわゆる母乳の代わりには決してなりません。 これは牛乳も同様です。
ヤギミルクも牛乳も、母乳の代わりとしては不適切であることが明らかです。もし母乳を代替するのだとしたら、認可された育児用粉乳を選びましょう。

  • Q ヤギミルクは、母乳や育児用ミルクの代わりになりますか?
    A

    いいえ。なりません。母乳または認可された育児用粉乳を選びましょう。ミルクと比較して優れているということは決してありません。むりそさまざまな栄養が足りません。

  • Q 牛乳アレルギーなのでヤギミルクにしたいと思います。
    A

    牛乳でも、育児用ミルクでも、ヤギミルクでも牛乳アレルギーの成分はほとんど変わりがありません。牛乳アレルギーの人はヤギ乳をのむことはできません。

  • Q ヤギ乳(ヤギミルク)は危険ですか?
    A

    いいえ。危険ではありません。しかし1歳未満の乳児に母乳や育児用ミルクのように飲ませることは危険です。2歳以降に食事の一環としてあげることは構いません。他のものと一緒にバランスよく摂取しましょう。また、しっかり加熱されていて、日本の流通に沿ったものを購入するようにしましょう。

  • Q 乳糖不耐症です。ヤギ乳を飲んでもいいですか?
    A

    ヤギミルクには乳糖が牛乳とほぼ同量ふくまれています。

参考文献

  1. JANDAL, J.M.. Comparative aspects of goat and sheep milk. Small Rumin. Res. ;.22:177-185
  2. Chia, J.,et.al. Minerals in Sheep Milk (, Ill.). Nutrients in Dairy and Their Implications for Health and Disease. ;Chapter 27:345–362 (URL)
  3. 田中桂一・佐藤響太. ヤギ乳はヒトにやさしい ヤギ乳と牛乳の比較. 北畜会報. ;48:79-84
  4. Hoda M. El-Zeini. MICROSTRUCTURE, RHEOLOGICAL AND GEOMETRICAL PROPERTIES OF FAT GLOBULES OF MILK FROM DIFFERENT ANIMAL SPECIES. Pol. J. Food Nutr. Sci.. ;Vol. 15/56, No 2:147–154 (URL)
  5. Bellioni-Businco, B., et al.. Allergenicity of goat's milk in children with cow's milk allergy. Journal of Allergy and Clinical Immunology. ; 103(6),: 1191-1194 (URL)

著者のプロフィール

川口由美子
川口由美子
一般社団法人 母子栄養協会 代表理事
女子栄養大学 生涯学習講師
NHK「すくすく子育て」他 出演
女子栄養大学 卒(小児栄養学研究室)。企業にて離乳食の開発を行ったのち独立、管理栄養士として多くの離乳食相談を聞き、母親に寄り添った講演会を開いている
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#離乳食#食の安全
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