オクラのネバネバはムチレージ。ムチンではない。健康効果の誤解
オクラや長芋など、いわゆる“ネバネバ食品”は「体に良い」と語られることが多い食材です。
また、その一方で、「オクラのネバネバ成分=ムチン」という情報がメディアで広がっています。
実はこの「ネバネバ成分がムチンである」という表現は、科学的には誤りです1, 2)。
では、ネバネバの正体は何なのでしょうか?
ムチンとは動物由来の成分
ムチン(mucin)は、動物の粘膜に存在する糖タンパク質で、唾液や胃粘液などに含まれます2)。
ちなみに、英語でmucinは「ムチン」ではなく、「ミュースン」と発音します。
オクラや長芋などの植物には存在しません。
ここが誤解の出発点です。

植物のネバネバはムチレージ(mucilage)等
オクラや山芋などの粘りの正体は、ムチンではなく、ムチレージ( mucilage:ミュースレイジ)といいます。
管理栄養士
ムチレージとは、 植物 (野菜、野草、種子など) に含まれる 水溶性多糖あるいは多糖質群 (polysaccharides / hydrocolloids)を指します3)。
長芋 (ヤマイモ) のネバネバ成分は、植物性ムチレージ
ヤマイモから抽出された粘性物質についての研究5)では、その成分は β-1→4 直鎖多糖などからなる植物性多糖質であると報告されています 5)。
つまり、繰り返しになりますが、複数論文でも長芋のネバネバを「ムチン」と呼ぶのは誤りであるとされています。
長いものネバネバ成分は、正しくは「植物性ムチレージ (mucilage)」なのです5)。
亜麻仁、メカブなど、多くの植物がこのムチレージを持ちます3)。
ネバネバやヌメヌメと表現される、粘りは見た目の特徴であり、動物性ムチンとは成分も働きも、全くの別物です3,4)。
納豆のネバネバは、ポリグルタミン酸 (γ-PGA)
納豆の「糸を引くネバネバ」は、発酵菌によって生成された ポリ-γ-グルタミン酸 (γ-PGA) が主成分である、という研究があります 6)。
γ-PGA は水に溶けやすく高い吸水性を持つ多糖 (あるいは高分子ポリマー) で、納豆の特有のネバネバはこの成分によるものです6)。
つまり、納豆のネバネバはムチンでもムチレージでもありません。
でも、身体にいいのでしょうか?
でも、身体にいいのでしょうか?

よくある誤解「ネバネバ=胃を守る」は本当?
植物のムチレージには動物性ムチンのように、粘膜保護作用をするという科学的根拠はありません1)。
管理栄養士
ネバネバ食品の“健康効果”は粘りではなく成分による
ネバネバには実際に注目される成分があります。ただし、健康効果の主役は「ネバネバだから」ではなく素材に含まれる成分なのです。
- 植物性ムチレージや水溶性多糖は、水溶性食物繊維 の一種として腸内で働く可能性がある 2,3,5)
- 発酵食品 (納豆など) の γ-PGA や発酵由来成分には、 ミネラルの吸収促進や独特の機能性 が報告されているものがある 6)。
粘りの有無はあくまで、「見た目・食感上の特徴」であって、栄養学的な効能を保証するものではないのです。
| 食品 | 主な粘性成分の根拠 | 粘りの正体 | 補足 |
|---|---|---|---|
| オクラ・長いも | 多糖 | ムチレージ | 水溶性食物繊維として働く可能性 |
| 納豆 | ポリγ-グルタミン酸(γ-PGA)6) | 発酵由来成分 | カルシウム吸収促進の可能性報告あり |
つまり、「ネバネバ=健康」ではなく、あくまで見た目の話。
食品ごとに含まれる成分の働きが異なるので栄養学上、ネバネバが体にいいとは言えないでしょう。
まとめ
長芋やオクラに含まれるのはムチレージであり、ムチンではありません。
ネバネバ成分が粘膜を保護するというのは、動物性のムチンのことであり、植物性ムチレージには粘膜保護作用はありません。
ネバネバ食品が体にいいかは、成分次第であり、それぞれ働きも異なるということになりますね。
つまり、「ネバネバ=身体によい」というのは、イメージによるものなのかもしれません。
参考文献
- 丑田 公規. ムチン奇譚:我が国における誤った名称の起源. 生物工学. ;第97巻 第1号:(2025年12月5日 閲覧)
- Akiko Masuda,et.al.. Mucin (Qniumucin), a Glycoprotein from Jellyfish, and Determination of Its Main Chain Structure. Journal of Natural Products. 2007年6月;70(7): 1089–1092(2025年12月5日 閲覧)
- Wikipedia contributors . “Mucilage”(2025年12月5日 閲覧)
- Wikipedia contributors . “Okra”(2025年12月5日 閲覧)
- 日本食品工業学会誌.ナガイモ粘液の化学組成(2025年12月5日 閲覧)
- 味の素.納豆のネバの主成分(ポリグルタミン酸)を配合した 世界で初めてのカルシウム含有食品 新発売(2025年12月5日 閲覧)
- 谷本博之ら. ヒトのカルシウム吸収に与えるポリ-γ-グルタミン酸の効果. 日本栄養・食糧学会総会講演要旨集. 2000年4月;54:234(2025年12月5日 閲覧)
著者のプロフィール

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一般社団法人 母子栄養協会 代表理事
女子栄養大学 生涯学習講師
NHK「すくすく子育て」他 出演
女子栄養大学 卒(小児栄養学研究室)。企業にて離乳食の開発を行ったのち独立、管理栄養士として多くの離乳食相談を聞き、母親に寄り添った講演会を開いている
記事
コラム2025年12月5日離乳食でピーマン・パプリカ・トマトの皮はむくべき?
コラム2025年12月5日オクラのネバネバはムチレージ。ムチンではない。健康効果の誤解
コラム2025年10月30日有機野菜(オーガニック)は体にいい?栄養・残留農薬・環境から考える
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