液体ミルクが今ごろ解禁が検討される理由
乳児用液体ミルク(「液体ミルク」)が解禁へ動き始めると、ニュースになっています。
なぜ、こんな便利なものが今頃解禁されるのでしょうか。
法律により、育児ミルクは「粉乳」とされていた
欧米ではスーパー等で簡単に買うことができますが、 現在の日本では法律上の理由で、流通できない状況です。
約20年ほど前、「液体ミルクを作りたい」という考えはあり、検討したことがありますが、
法律上は、育児用ミルクは粉ミルクに限られており、法律を改正する必要があるためにとても困難であろうと思われてきました。
食品衛生法において、乳児用の「調製粉乳」は、
「生乳や牛乳などを主要原料とし、乳幼児に必要な栄養素を加え粉末状にしたもの」として定められており、
粉末でなくてはならなかったのです。
ここで法律が見直されることになれば、消費者だけではなく、各メーカーにとっても朗報になるはずです。
改めて、液体ミルクの利点と、今後の問題点を考えてみます。
液体ミルクの利点
1.衛生面
気になるのは、液体ミルクの衛生面です。
液体ミルクは、紙パックやPETなどの袋に無菌充填されるので、衛生的であるといえます。
粉ミルクは、水分活性の低い粉末なので、菌の繁殖は少なく抑えられるものの、
開封後にサルモネラ菌やサカザキ菌が増殖するケースがみられたり、
家庭で使う哺乳瓶やら、調乳後の保存してしまうことなどで、細菌感染のリスクがあるといえます。
つまり、粉ミルクよりも液体ミルクのほうが、菌については安全といえるのです。
実際に、「乳児用調製粉乳の安全な調乳、 保存及び取扱いに関するガイドライン」では、
新生児など高リスク下の乳児には、
有害細菌が含まれていないという理由で、液体ミルクが望ましいとしています。
2.災害時対策として
液体ミルクは、水や火(煮沸)の必要がないので、
そのまま乳児にあげることができるのは大きな利点です。
ミルク育児の赤ちゃんだけではなく、災害時では母乳もストレスで止まったりしてしまうので、
普段からミルク育児の赤ちゃんよりも、必要な割合は増えるはずです。
3.育児の軽減
少子化や男性の育児参画などが叫ばれても、
赤ちゃんのお世話をする母親の負担はまだまだ大きいものです。
調乳の手間がいらない液体ミルクなら、
父親のみならず、
調乳になれていない祖父母でもあげやすくなるのではないでしょうか。
このような便利グッズが1つでも増えることが、
お母さんの育児負担を少しでも軽減できるはずです。
液体ミルク販売の問題点
1.栄養成分が保てるのか
これは、あくまでも筆者の意見ですが、
粉ミルクの場合は、製品が安定しやすい
(未開封状態では、細菌も増殖せず、栄養も損なわれにくい)のですが、
液体ミルクの場合は、それがどこまで安定するかというのは、
私は今の状態ではわかりません。
育児用ミルクとなれば、普通の牛乳とは違い、安全性だけではなく、
さらに栄養成分も母乳に近づけなくてはいけませんので、
その製品維持ができるのかが課題かと思います。
FAO/WHOの発表では、液体育児用ミルクへの添加物(κ-カラギーナン)の危険性が指摘されています。
他にも添加物などにも気を付けたいものです。
もちろん災害時にはそのようなものでもいいということがありますが、
毎日使うことを想定せねばいけません。検討は必要なのかもしれません。
2.市場のニーズと供給のバランス
筆者が想定するに、もし液体ミルクができたとしても、1本あたりかなり高価になると予想できます。
例えば1本150円ほどになるとして、皆さんはどのくらい購入しますか?粉ミルクの3倍ほど高いということになります。
災害用に備えるとよいとは思いますが、保存には1年。
製造して問屋を介して店に出回るまで1~2か月ほどかかるとして、残り10~11か月。
そして今の日本の流通では、賞味期限の残りが1/3をきると、返品されてしまいます。
つまり、12か月だと残り4か月で切られてしまうので、実際に店頭で売られる期間は、
なんと6か月しかない計算ができてしまいます。
その6か月に、何人の人が買うのでしょうか。
たくさんの人に買ってもらえるよな商品になる必要があります。
そのためには、
「液体ミルクが良い!赤ちゃんへの1つの大切なライフライン!」
という風潮になる必要があるのではないでしょうか。
また、一時の災害用やいざという時の家庭の備蓄のためとするには、
あまりにも賞味期限が短く、限られた日数での売り上げ数が気になってしまうところです。
たくさん購入され、回転よくしないと、備蓄しても賞味期限切れで飲めなくなってしまうかもしれないからです。
液体ミルクを普及させるために
いろいろ難しい問題はあるかと思いますが、消費者である私たちが声をあげ、
そして、実際に使っていかれるような社会づくりをしたいものです。
「液体ミルクなんて育児の怠慢」などと母親を攻撃するようなことは絶対にあってはなりません。
液体ミルクをたくさん使うことで、はじめて液体ミルクが災害時にも役立つという論理が成り立つのではないか
と思うほどなので、
なるべく使っていきやすい社会づくりをしていくことが、今わたしたちにできることです。
安全性と育児軽減のためにもぜひ1日でも早い国産液体ミルクの商品化を望みます。
参考文献
・「乳児用調製粉乳の安全な調乳、 保存及び取扱いに関するガイドライン」(世界保健機関/国連食糧農業機関共同作成 2007年)
・「Safety evaluation of certain food additives」FAO/WHO
著者執筆の記事一覧
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一般社団法人 母子栄養協会 代表理事
女子栄養大学 生涯学習講師
NHK「すくすく子育て」他 出演
女子栄養大学 卒(小児栄養学研究室)。企業にて離乳食の開発を行ったのち独立、管理栄養士として多くの離乳食相談を聞き、母親に寄り添った講演会を開いている
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